魚の名前は、魚体の大きさや、地域によって呼び名が違うケースが数多くあります。
イシダイとシマダイ、イサキとウリンボウのように、成魚になるに従い見た目が変わり、それに伴って呼び名も変わる魚もいれば、大きさ以外に見た目はあまり変わらないものの、成長するに従い名前が何度も変わる魚もいます。
そしてその名前を聞くと、魚の大きさが思い浮かんできます。その代表が出世魚。ブリ、スズキ、ボラといった魚が特に有名です。このほかに、サワラ(サゴシなど)、クロダイ(カイズなど)、ヒラメ(ソゲなど)など成長するにしたがって呼び名が変わる魚は他にもたくさんいます。
出世魚は「ぶり はまち、元はいなだの出世魚」と川柳に読まれるように、古くから日本人の生活に馴染みのコトバです。
みなさんは出世魚と聞いて、どんな魚を思い浮かべるでしょうか?私たちの食生活のなかにも、ブリやイワシなど、複数の名前をもつ魚は数多くいます。
出世魚と、名前は変わるけど出世魚ではない魚が今回のテーマです。あなたの思い浮かべた魚は出世魚なのでしょうか?
(ヒメマス)
出世魚でないけれども、名前の変わる魚にサケ・マスがあります。「サケ」「マス」と表記は違っていますが、実はこの2種類の魚、生物学的には明確な違いがありません。元来は同じ種類の魚なのです。マスはサクラマス、ニジマスなどの魚の総称で、いずれもサケ科サケ属の魚。
英語では海に下るものをサーモン(サケ)、川などの淡水で生活するものをトラウト(マス)と呼ぶことが多く、住む場所によって名前が変わっています。上の写真はヒメマスですが、海に降りたものはベニザケと呼ばれます。
ブリやハマチのように成長とともに呼び名が変わるのに、出世魚に当てはまらない魚もいます。たとえばウナギ。稚魚はシラスと呼ばれ、黒みを帯びるとクロコなどと呼ばれますが、一般的に出世魚とは呼ばれていません。
(とれたてのブリ・イナダ)
ところで日本に輸入されている魚で、出世魚のように成長するにしたがって名前が変わる魚は?と想像すると、これと言って出てきません。
出世魚の「出世」とは、日本ならではの風習と関わりがあります。江戸時代まで武士は出世や元服に伴って名前を変えていました。
成長とともに名前を変える魚は、この慣例に倣って出世魚と呼ばれ、縁起の良い魚として祝いの席で振舞われるようになったとされています。
実際に成長するに従い名前が変わる魚種は数多くありますが、一般的に、出世魚と親しまれているのはブリ、スズキ、ボラなどです。
(ブリ)
銀行家でもあり民俗学者でもあった渋沢敬三の『日本魚名の研究』によると、成長とともに名前を変える魚は82種類いるそうです。そのなかでも、一番異名の多い魚はブリです。
日本近海に生息するブリは、主に2月から5月にかけて生まれ、10センチメートル(以下:cm)未満の稚魚はモジャコと呼ばれます。なお実際には関東・関西・九州各地で名前が異なります。魚ごとに、明確に何センチからどの名前に変わるというわけではないのですが、おおよそ関東では20cmでワカシ、40cmでイナダ、60cmでワラサと呼ばれ、80cmでようやくブリになります。
大きさ | 20cm | 40cm | 60cm | 80cm |
関東 | ワカシ | イナダ | ワラサ | ブリ |
関西 | ツバス | ハマチ | メジロ | ブリ |
九州 | ワカナゴ | ヤズ | コブリ | ブリ |
(地域・大きさなど目安です)
一方関西では40cm程度のブリで、ハマチと命名されています。養殖したブリはハマチと呼ばれますが、これは養殖ブリが旬を問わず安定供給されるため、ブリ養殖が盛んだった西日本の「ハマチ」という名称が全国に普及したようです。
ほかに有名な出世魚ではスズキは、セイゴ、フッコ、スズキと大きさによって名前が変わっていきます。
ボラについては、イナ、ボラ、トドなどと名前が変わっていきます。「トドのつまり」という言葉をご存じでしょうか? この「トド」というのはボラのことで、これ以上は大きくならない、進まないなどの意味で使われています(*諸説あり)。
文化の多様性を示す魚の変名。魚の名前にみられるような地域文化は、豊富な食文化や旬の季節感のためにも、ぜひ大切にしたいですね。