東京湾のマハゼを復活させよう! ―江戸前ハゼ復活プロジェクトー

ハゼは日本全国の浅い海などにすんでいるスズキのなかまの魚で、昔から多くの人々がハゼつりを楽しんできました。また、江戸前の魚として、天ぷらや甘露煮などで食べられてきました。しかし、最近では東京湾にすむハゼの数が減少しています。実は、東京湾にすむハゼの数を復活させるべく、この減少に危機感を感じている専門家の方々が釣り人と協力して取り組むプロジェクトが進行しています。今回はこの「江戸前ハゼ復活プロジェクト」を紹介します。

ハゼは日本全国の浅い海などにすんでいるスズキのなかまの魚で、昔から多くの人々がハゼつりを楽しんできました。また、江戸前の魚として、天ぷらや甘露煮などで食べられてきました。
しかし、最近では東京湾にすむハゼの数が減少しています。実は、東京湾にすむハゼの数を復活させるべく、この減少に危機感を感じている専門家の方々が釣り人と協力して取り組むプロジェクトが進行しています。今回はこの「江戸前ハゼ復活プロジェクト」を紹介します。

マハゼはどんな魚?

今回のプロジェクトの主役は、スズキ目ハゼ科マハゼ属のマハゼです。
マハゼは様々なものを食べて急速に成長し、長く生きるものでも数年、多くは1年ほどの寿命で死んでいきます。食べているものは、例えば、子どもの時には動物プランクトンなどを食べ、その後、砂にもぐっているゴカイや小型のエビ・カニなどを食べるようになり、大きくなると、アオノリなどの海藻や、他の小魚も食べているようです。
一方で、マハゼはサギなどの鳥やウナギ・スズキなどの大型の魚にエサとして食べられる存在でもあります。このように食べたり食べられたりしながら、マハゼは生態系の一部として、海の水と川の水が混ざる「汽水域(きすいいき)」と呼ばれる場所に生息しています。

(ハゼ科 マハゼ)

冬になると、マハゼは湾奥の6~8 mの深場に深い巣穴をほり、その中の天井に卵を産みます。春になると、子どもにまで成長したマハゼは川をさかのぼり、川の浅いところに集まります。その後、夏には若い元気なマハゼにまで成長し河口や運河に下ってきて、秋になると再び、海に集まるといわれています。

(季節ごとのマハゼの生息場)

どうして減ってしまったのか?

ところで、東京湾のハゼはどのくらい減ってしまったのでしょうか?
専門家が船で釣ったハゼの数から試算すると、1960年代に1億匹釣られていたハゼは、1980年代に1,000万匹、2000年代には100万匹、という結果で、20年で10分の1になる割合で減っているようです。
こうした変化は、東京湾の埋め立てなどによって今までの生息場所、産卵場所がなくなってしまったこと、水質の悪化、病気、エサ不足などの原因が考えられます。

まずはマハゼのすみか調査から

マハゼがどこで生まれてどこで育つのかを改めて地図でみてみましょう。
冬に海側の深場で生まれたマハゼは、春になると川をさかのぼって川の浅場に移動し、夏には河口や運河に下り、秋になると再び海に戻ります。マハゼが育つ環境は東京湾と川や運河が入り組んでおり、成長段階に応じて変わる生息場所が複雑につながって、ネットワーク化されています。

(マハゼの生息場ネットワーク)

マハゼのすみか調査は、マハゼの大きさを手がかりにして、改めてこのようなネットワークを明らかにしていく調査です。
マハゼは成長期には1ヶ月で1.5 cm程度大きくなります。釣ったマハゼの数と大きさを釣り人などから報告してもらい、その結果を月ごとに比べることで、産卵時期やその後の移動状況を推測することができます。

調査で分かってきたこと

今までの調査データから、夏に釣れるマハゼの中には、昔から確認されている冬生まれだけでなく、春や初夏に生まれた小さめなマハゼや、前年の夏から秋生まれの大きめなマハゼがいることなどが、調査結果からわかってきました。
冬生まれのマハゼは、この時期以降、深場に移動しようとしますが、夏場の河口や運河には、海底付近に酸素の無い水(貧酸素水塊)が広がっているため、移動が妨げられたり、貧酸素でマハゼが死んでしまったりしているのです。
一方で、春から夏生まれのマハゼは、夏場の貧酸素水塊が解消したタイミングで移動を始めるでしょうし、前年の夏から秋生まれの大きなマハゼは泳ぐ力が強く、貧酸素水塊の広がりから逃げることができると考えられます。こうしたマハゼたちは、冬をこえて次の年まで生き残る可能性があるため、マハゼの数を復活させるカギになるかもしれません。

それでは、春から夏に生まれたマハゼが冬の間に過ごしやすい場所はどこなのでしょうか?
その一つのヒントが、冬生まれのマハゼが冬に移動する海の深場ではなく、運河の浅場であると考えられています。運河に流れ込む水の中には、暖かい水が少なくありません。下水処理場を通ってきた水、発電や工場の冷却水などは、周囲より暖かい水で、運河は冬場の海側の深場よりも暖かい環境となります。また、運河の曲がり角や橋げたの近くでは、流れがうずとなり、海底に砂やどろがたまって浅場ができます。この浅場にエサとなるエビやカニがすめる場所を作り出せれば、マハゼのエサが確保できます。また、ブロックや石などですき間を作り出せれば、巣穴として利用してもらえる可能性もあります。

(釣られたマハゼ)

東京湾のマハゼのすみか調査を通してわかってきたことは、産卵時期やすみかが従来言われてきた時期や場所と少しずつ変化してきているということです。これは、マハゼが環境の変化に適応しているという事かもしれません。
「江戸前ハゼ復活プロジェクト」は、調査を通してわかってきたことを参考に、新たなマハゼのすみかをどのようにつくっていけばよいのか、マハゼの復活を進めるために何をすべきなのかを共に考えていく取り組みです。復活が進めば、この先将来もみんなで海辺や運河でマハゼを釣って楽しんだり、マハゼのから揚げやてんぷらを美味しく食べたりすることができるでしょう。
そのための一歩として、まずは、生き物の生息状況や環境の変化を知ることから始めてみませんか。

参考:江戸前ハゼ復活プロジェクト https://mahaze.suisan-shinkou.or.jp/