DHAの未来は海の藻から ― 魚に頼らない持続可能な選択肢

魚由来の健康成分として広く知られているDHA(ドコサヘキサエン酸)。
「DHAは魚から摂るもの」というイメージがありますが、その源は「藻類(そうるい=藻)に含まれる油脂」であることをご存じでしょうか?
本記事では、世界的に注目を集める藻類由来のDHAについてご紹介します。

DHAとは何か ― 健康を支える必須脂肪酸

n-3(オメガ3)系の脂肪酸の一種である「DHA(ドコサヘキサエン酸)」は、脳や神経の発達、記憶力の維持、生活習慣病の予防など、私たちの健康に関係の深い栄養成分のひとつです。
人間の体内でほとんど合成できず、食事から摂取する必要があります。

DHAの最大市場はどの国か

日本は食品・飲料分野におけるn-3の最大市場であり、世界全体の31.7%を占めています。超高齢社会を背景に、魚や魚油の健康効果への認知度が高く、多くの成人が脳の健康維持や生活習慣病の予防を目的に食生活へ積極的に取り入れています。成人だけでなく新しいターゲットやカテゴリーの商品も生まれており、今後も国内での需要は増加する見込みです。

世界の状況はどのようになっているのでしょうか。実際にn-3についてのデータを見てみましょう。
世界の食品・飲料分野におけるn-3の需要は拡大を続けており、2024年には前年比2.0%増の5,749メトリックトン*に達しました。今後も年平均1.9%の成長率で伸びていくと予測されています。

*メトリックトン: 重量換算単位の一種で、メートル法でのトン(1,000キログラム)のこと。MTと略す。

(食品・飲料分野のn-3需要量予測(2023~2027年))

世界市場で存在感を増す藻類由来のDHA

世界全体のn-3供給源を数量ベースで分けると、精製魚油が約55%、藻類油が約27%、マグロ油が約13%を占めています。
以下のグラフは、各供給源のボリュームを楕円の大きさで表しています。

(食品・飲料分野のn-3供給源(2024年))

「一般精製(Common Refined 複数の魚種から抽出・精製された標準的な魚油)」が最も多く、次いで「藻類(Algae)」となります。「マグロ(Tuna)」や「サーモン(Salmon)」、「タラ(Cod Liver)」よりも、藻類由来が大きく上回っているという事実から、魚油に次ぐ規模を誇る藻類由来のDHAは持続可能性への期待を背景に、今後さらに拡大していくと考えられています。

魚油と藻類 ― DHAの源にさかのぼる

「DHA=魚」と思う人は多いでしょう。食卓に並ぶマグロやサバ、サーモンを思い浮かべれば、確かに魚から摂っている感覚になるかもしれません。けれども実際には、魚が自らDHAを作り出しているわけではありません。
海の中でDHAを生み出しているのは、目に見えないほど小さな微細藻類です。藻類がつくり出したDHAを動物プランクトンが食べ、そのプランクトンを魚が捕食する――こうした食物連鎖の積み重ねによって、魚の体内にDHAが蓄積され、最終的に私たちの食卓へと届いているのです。つまり、魚は「DHAの生産者」ではなく「供給者」であり、本当のおおもとは藻類にあります。

近年では、この藻類を培養してDHAを抽出する技術が進み、魚を介さずに直接「藻類由来のDHA」を生産できるようになりました。
魚に頼らずとも、藻類から直接得られるDHAは、持続可能性や環境負荷の観点からも注目されています。

(上:魚由来のDHA 下:藻類由来のDHA)

藻類由来のDHAはどんな藻から得られるのか

DHAのおおもとは「藻類に含まれる油脂」と分かりました。ではいったいどのような藻類なのでしょうか。
藻類由来DHAは主にシゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)という単細胞藻類から得られます。熱帯・亜熱帯のマングローブ域から沿岸汽水域まで広く分布していますが、顕微鏡でしか見えない微細なサイズのため、私たちの肉眼で見ることはできません。

(シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.))

私たちのまわりには多くの種類の藻類が存在しています。シゾキトリウム(Schizochytrium sp.)の他にも身近な藻類について特徴をまとめました。

(主な藻類の特徴と用途)

持続可能な藻類由来DHAの利点と課題

利点としては、漁獲量や気候に左右されず持続可能な供給が可能であること、魚油と構造が同じで健康効果も同等であることが挙げられます。特に海洋環境の変化や漁獲量の不安定さに左右されない点は大きな強みです。

一方で課題もあります。抽出直後の藻油は色や臭いが強く、食品や飲料に利用するためには脱色・脱臭による無臭化が必要です。

(左:脱色・無臭化前  右:脱色・無臭化後)

魚油由来のDHAは、すでに長い年月をかけて脱色や無臭化技術が確立され、その信頼性の高い栄養成分は私たちの健康を支えてきました。
マルハニチロではその技術を藻類の油脂に応用し、健康食品や粉ミルク、飲料向けの原料として幅広く供給する準備を進めています。さらに技術革新が進めば、新しい分野でより多くのお客様の健康をサポートできると考えています。

(微細藻類DHA油の製造工程)

まとめ

魚油由来のDHAは長い年月をかけて、私たちの健康に信頼のおける栄養成分としての地位を得ることができました。そこへ新たに加わった藻類由来のDHAは、魚に依存しない持続可能な供給源として、新しい役割を担いつつあります。
海のめぐみである「魚」と「藻類」の両輪により、DHAの安定供給の選択肢が増えています。