サケ、川と海を旅するダイナミックな一生

おだやかな秋の黄昏空のような身色をしたサケ(シロザケ)。川で生まれ、海で育ち、また生まれた川に戻ってくることはご存知ですよね。子どもたちが稚魚を放流している様子や、産卵のために遡上している映像は、たびたびニュースでも見かけます。
日本人に愛され、私たちの食卓になじみ深い魚の代表格のサケですが、実際にどのような生活をしているかは、意外と知られていないのかもしれません。

そこで今回は、川と海を旅するダイナミックなサケの一生をクローズアップしてお届けします。

河川内で体の基礎作り。そして大海原へ

(ヨークサックを付けたシロザケの仔魚)

サケは水温変化の少ない、湧水のある砂利の川床に卵を産み付けます。
川の水温を毎日足していって、その合計が480℃を超えると卵からふ化するという性質を持っています。生まれたてのサケの赤ちゃん(仔魚)は、砂利の中でじっとしています。
おなかの下のヨークサックという栄養の詰まった黄色い袋を栄養として成長し、ふ化のときのように毎日の水温を足してまた480℃を超えた頃、やっと水面近くまで浮上します。
稚魚となったサケは、栄養がまだ残っているヨークサックの助けを借りながら、懸命に水生昆虫などを食べて育っていきます。そして産卵の次の年の春には、生まれた川から海へと旅立っていくのです。

私たちが一般にサケと呼ぶシロザケは、自力で泳いで餌がとれるようになるとほどなくして、海を目指します。
同じサケでは、カラフトマスも同じ性質を持っています。一方で、サクラマスは1~2年川で過ごしたのちに海へ向かうサケ科の魚です。
そのサクラマスの中でも、そのまま海に行かず、一生を川で過ごすサクラマスはヤマメと呼ばれます。この生活の違いは同じサケ類でも、もとは淡水魚だった先祖から、進化の過程で分かれたことにあります。
必ず海へ向かう回遊性の高いシロザケは、進化のもっとも進んだ種であると考えられています。

サケ科の魚は、河川で生活している間は体にパーマークという斑点があります。海へ向かう際にこの斑点は消失して、体色が銀色になり、このことをスモルト化(銀毛)と呼んでいます。

日本の川で生まれたサケが、はるばるベーリング海へ

(水産研究・教育機構FRANEWS vol.16)

海に下ったばかりのサケの稚魚は、河口や沿岸など塩分の低い海水を好みます。
この時期から、アスタキサンチンという赤い色素を持った動物プランクトンを食べることで、身はピンク色になっていきます。
沿岸の海水温が高くなってくると沖合に出て、日本列島を沿うように北上し、最初の夏はオホーツク海で過ごします。オホーツク海に広く分布していたサケたちは秋の深まりとともに千島列島の間のせまい海峡を抜け、その先の北西太平洋で冬を越します。そして春になり水温が上昇してくると、今度はベーリング海を目指すのです。

そこには日本生まれのサケのほかに、ロシアやアラスカで生まれたサケも集まり、さながら国際色豊かな大食堂のよう。動物プランクトンを食べる以外にも、ハダカイワシの仲間や小型のイカなども食べてどんどん成長していきます。

そしてまた秋がくると、今度はベーリング海からアラスカ湾へと移動して冬を過ごします。日本生まれのサケは、こんなに広く北太平洋を回遊しているのです。
夏はベーリング海、冬はアラスカ湾という移動をくり返し、3回または4回の冬を経験したサケは、ベーリング海で夏を過ごしたのちに、カムチャッカ半島から千島列島に沿って日本へはるばる戻ってくるのです。 日本に帰ってくるサケは、4年魚がもっとも多く、次に多い5年魚と合わせると全体の90%にのぼります。

産卵のために故郷の川に帰ってきます

全行程30,000キロメートルに及ぶ長い旅路の終わりが近づく秋から冬にかけて、産卵のためにサケは故郷の川へ戻ってきます。
産卵が近づくと銀色だった体は黒ずんで、暗赤色のまだらなしま模様の婚姻色が現れ、オスは口先が伸びて曲がる様子から「鼻曲がり」と呼ばれます。

(上:鼻曲がり 下:産卵のために川に上る前のサケ)

近年国産サケの水揚げ量の減少が問題になっています。その原因の一つとして挙げられるのが、回帰率の減少です。もともと無事に故郷の川に戻ってこられるサケはわずかです。2000年以降で見てみると放流数は、毎年約18億尾とほぼ変わっていません。ところが親になって産卵のために戻ってくる全国の回帰率(単純回帰率)が、2000年~2017年で平均2.9%に対し、2017年は1.3%(速報値含む)と落ち込んでいるのです。実際の水揚げ数量と回帰率の推移を比較するとグラフのようになり、その傾向は似ています。なお、単純回帰率というのは、4年前の年級(生まれ年)の放流数に対する来遊数の割合です。

(水産研究・教育機構データを編集)

大海原からどうやって生まれた川を探し出し、帰ってこられるのか、現在でもその仕組みははっきりとはわかっていません。
川のにおいを覚えている、体内時計と太陽の位置・高度から自分の現在位置を推定できるなど、いくつかの説があります。
1つの方法ではなく、複数を組み合わせている可能性も指摘されています。

産卵の終わったサケは数日生きて卵を守ったのち、オスもメスも息絶えてしまいます。その後、鳥やキツネといった動物の餌となるだけでなく、水中の微生物に分解されたり、陸上に運ばれたりすることで、周辺の森へ海洋性のミネラルをもたらしています。
北太平洋の大海原を回遊してきたサケは、今度は生態系という大きないのちの環をめぐっていくのです。

この記事に含まれるキーワード

クリックするとキーワードが含まれる記事を検索します。