赤くなくてもタイ!意外と身近にいるクロダイ

タイといえば、赤い色をしたマダイを想像される方が多いと思います。
一方で、釣り人の間では人気なクロダイを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?クロダイは関西地方などでは一般にチヌと呼ばれています。

マダイが沖合での船釣りが主なのに対し、クロダイは沿岸の堤防や磯といった、気軽に行ける場所で釣れることから、釣り人にとって、より身近な存在と言えるでしょう。

今回は、意外と身近に生息していて、釣り人に人気のクロダイについて解説します。

クロダイという魚

関東では、クロダイは出世魚です。小さい順にチンチン・カイズ・クロダイと呼び名が変わっていきます。 関西ではババタレ・チヌ・オオスケと変わりますが、出世魚というよりは、特にチヌという名で親しまれています。

一説に、その由来は平安時代初期の頃に、大阪南部の和泉灘は茅渟(ちぬ)の海と呼ばれていて、クロダイが名産として獲られていたことから、茅渟の海で獲れる魚で「チヌ」と呼ばれるようになったと言われています。

また山形ではクロデ、高知ではクロチヌ、石川ではカワダイ、島根ではチンダイなどとも呼ばれており、幼魚からの呼び方を含めると全国に20通り以上。磯釣りの代表的な対象として、まさに各地域に根付いている魚と言えます。

クロダイは日本沿岸から朝鮮半島沿岸、中国北部沿岸、さらにはベトナムまで広範囲に生息し、スズキ目タイ科の魚です。雑食性で、釣りエサにはエビ・カニといったものから、スイカ、ミカン、サナギまで使われています。

マダイもスズキ目タイ科に属しますから、かなり近い親戚のような関係にあり、色こそ違っても、そっくりな風貌は納得のいくところです。名前にタイとついていてもタイ科の魚ではない、いわゆる「あやかりタイ(イシダイやキンメダイなど)」も多い中、クロダイはれっきとしたタイと言えます。

「タイ」と名のつく魚は多けれど、本物のタイは一部だけ?

クロダイが話題になった理由の一つ

(ノリ養殖場で養殖ノリを食べるクロダイ 提供:千葉県水産総合研究センター)

東京湾に面する千葉県の富津市などで養殖されるノリは、「江戸前海苔」として古くから親しまれています。そのノリが6年程前から不漁が続き、2019年度の生産量は10年前の4分の1以下になっているそうです。

そこでその原因を探るために水中カメラを設置したところ、おびただしい数のクロダイが集まっており、約5センチに成長したノリを1センチほどになるまで食べていました。

ノリの生産激減は、周辺で増えているクロダイによる被害が原因の一つとされたのです。
また、温暖化により、冬場の水温低下で食欲が落ちるはずのクロダイが、食欲を維持したまま越冬したために増えすぎてしまったことも指摘されています。

漁業者にとってはやっかいものですが、これを逆手にとって、食材で特産化しようと、今では新たな試みも始まっています。

身近な場所で見られるクロダイ

(東京湾のクロダイ)

東京湾などの岸壁から海中をじっと覗き込むとクロダイが見えることがあります。 えっ?こんな場所にと驚かされます。

(豊洲の釣り人)

また、岸壁に対して垂直に糸を垂らして釣りをしている人を見かけます。これは、堤防についたカイやカニなどの餌を求めて居着いているクロダイを狙っている様子です。

クロダイの漁獲や養殖

(ヨーロッパヘダイ)

全国の天然クロダイの水揚げ量は2,200トンと、天然マダイの14,600トン(共に令和2年漁業・養殖業生産統計 海面漁業漁業種類別漁獲量より)に比べると約1/7と大幅に少ない数量となっています。
また同じスズキ目タイ科でクロダイに似た魚にヘダイがありますが、合わせて年間約3,000トン弱、過去10年横ばいになっています。
そのうち養殖に関しては、日本でタイは“赤”や“おめでたい”に通じるなど縁起の良い魚として需要があり、マダイ養殖は盛んですが、クロダイ養殖は比較的少ない状況にあります。

ところで、欧州ではヨーロッパヘダイが地中海のギリシャやトルコなどで盛んに養殖されています。養殖量は260,000トン(2019年 国連食糧農業機関(FAO))で、日本のマダイの養殖量は約62,400㌧(令和2年漁業・養殖業生産統計 海面漁業漁業種類別漁獲量より)ですので、規模的に約4倍、人気の魚です。

そんなところから、日本では黒色のヨーロッパヘダイを輸入していないようです。

日本で獲れる、意外と身近なタイ科の魚“クロダイ”はいかがでしたでしょうか? お近くの岸壁をそっとのぞいて見てください、クロダイを見つけることができるかもしれませんよ。