ワカメは好きですか?
普段お味噌汁やサラダなどに何気なく使われているワカメ、これといった印象や、好き嫌いは特にないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
実はワカメは私たちの食べ物としてだけでなく、多くの生き物にとって大切な役割を担っています。
今回はそんなワカメの生態と、横浜のみなとみらいで行った「ワカメを育て収穫する体験活動」についてご報告いたします。
ワカメは九州南部から本州太平洋岸の黒潮の影響が強い地域と、寒流の流れる北海道東部を除いた、日本の各地に分布しています。
(日本周辺のワカメの分布域 出典:環境省)
ワカメは海に生息している藻類、つまり海藻で、コンブやヒジキ、モズクなどと同じ褐藻類に分類されます。冬から春にかけて大きくなり、1年のサイクルで一生を終えます。
海水温が上がり始める春頃に、わかめの根元にあたるメカブ(胞子葉または成実葉ともいう)から遊走子と呼ばれる胞子が海中に放出されます。
胞子を放出し役目を終えたワカメは枯れてゆき、海の生き物のエサになったり、海底の堆積物となります。
放出された胞子は発芽し、海底などに付着し一夏を過ごします。そして秋頃になると雌雄のある配偶体となり、卵・精子を作り受精し、芽胞体が発芽します。冬を迎えると芽胞体はどんどん大きく幼葉、成葉となり、1mを優に超す大きさまで成長します。
(ワカメの一生 出典:JFたろう岩手県・田老町漁業協同組合)
成長したワカメは一般的に、ワカメ(葉体)、茎ワカメ(中芯)、メカブ(胞子葉)の3つに分けて呼ばれています。
(ワカメの部位 出典:日本わかめ協会)
冬から春にかけてがワカメの旬です。
ワカメは自然にも生育していますが、一般に養殖のワカメが多く流通しています。1955年頃から東北地方でワカメの栽培(養殖)が始まり、養殖方法が各地へ普及していきました。
栽培方法はワカメのメカブ(胞子葉)から遊走子(胞子)を放出させ、細いひもなどで作られた採苗器に付着させます。採苗器(種糸)にワカメの幼葉の大きさが1・2㎝程度まで成長させた後、ロープなどに巻き付けて海中で育て、収穫します。
(採苗器(種糸) 出典:JFたろう岩手県・田老町漁業協同組合)
海の環境への理解を深め、海域の浄化、生物多様性の保全などを進める取り組みの一つとして、ワカメを海に植え、収穫するイベントが全国各地で行われています。今回は2年ぶりの開催となる夢ワカメ・ワークショップに参加しました。
2022年11月26日に横浜のみなとみらい21の海辺にワカメの生育ロープの設置と、その約3か月後の2023年2月11日に収穫を行いました。
みなとみらいでワカメを植える?!とびっくりする方もいるかもしれません。
現在みなとみらい21にある臨港パークでは、水環境の再生と豊かな生態系を育む海辺つくりが、官民挙げての取り組みとして進められています。
藻場に生育するワカメやアマモは、海中の窒素やリンなどを栄養分として吸収するため、海水の浄化が促進されます。また、光合成も行い海中の二酸化炭素から酸素が作られます。さらにワカメやアマモが生い茂る藻場は海の生き物のシェルターとして、快適な棲み処を提供してくれます。
(みなとみらい臨港パーク)
ワカメをみなとみらいの海辺で育てる期間は、芽胞体が発芽し成長する冬から春にかけてです。
数か月の間にワカメはぐんぐん成長していきます。どのくらい成長するのかは収穫までのお楽しみ♪
11月の作業は元となるワカメ(種糸)を、太さ1㎝程のロープに括り付け、海につるすことです。種糸は主催者であるのNPO法人海辺つくり研究会の皆さんにご用意いただきました。
(ワカメの種糸)
ロープをねじりの方向と逆にひねり、隙間を作ります。その間に種糸を差し込み、残りをロープに巻き付けます。
(ワカメをロープに差し込む)
ワカメのついたロープを、オレンジ色のウキのあるいかだの下、1m位の海中につるします。
さて2週間後、12月10日のワカメの様子を海辺つくり研究会より報告いただきました。
残念なことに、括り付けたワカメの多くが魚に食べられてしまっていました。
(魚に食べられてしまったワカメの種糸)
ワカメが成長する冬は通常海水温が低くなります。海藻を食べるクロダイやメジナなどは、春や秋頃より深い海域へ移動したり、動きが鈍くなります。しかし今年は海水温が十分に下がらなかったため、クロダイやメジナなどは活発なまま変わらず生息し、今回のような結果になってしまったことが推測されます。
ワカメはこれからでも成長が見込めるため、新たに種糸を付け、防護ネットを周囲にめぐらせ、成長を見守ることとなりました。
(12月25日の様子)
収穫は2月。ワカメが大きくなるのを祈るばかりです。
いよいよ収穫です。
2月でしたが、晴れて暖かく気持ちの良い収穫日和となりました。
オレンジ色のウキもイカダもすべて回収します。
まず防護ネットを、次にワカメの種糸をつけたロープを回収します。
防護ネットにはヘドロのようにも見えますが、実はノリ類で、びっしりと付着していました。
(防護ネットに付着したノリ類)
(防護ネットの回収)
さて、ワカメはどのくらい成長したのでしょうか?
収穫の様子は動画でご覧ください。
(ワカメ収穫の様子)
2か月ほどでこんなにもたくさんのワカメが収穫できました。
全部で356.6キログラムの収穫になりました!
今回収穫したワカメの重量から、窒素とリンの回収量を計算し、海をどれくらいきれいにしたかを算出しました。
総炭素量6.52kg、総窒素量0.82kg、総リン量0.25kgとなり、これをCO2量で換算すると、0.024トン(Jブルークレジット係数換算)に相当するそうです。
(ワカメ収穫の様子)
竹は1日に1mも成長するとも言われていますが、ワカメの成長速度もすさまじいです。種糸としてつけたワカメがこんなにも大きくなるとは、本当に嬉しい驚きでした。
さて、イカダをきれいにして回収した後、ブルーシートを片付けようとすると、何か動くものが・・・果たしてどんな生き物でしょうか?
(収穫したワカメにくっついていたものは??)
こちらはワレカラ類やヨコエビ類です。ワカメが多くの小型甲殻類の棲み処となっていたことがわかりました。ワレカラ類がいるなら餌である動物プランクトンや植物プランクトンも豊富に存在し、またワレカラ類などを食べる魚介類も生育でき、ワカメは海の生き物の生育場として存在していたことがわかりました。
はじめに植えたワカメは生育途中、魚に食べられてしまいましたが、魚の餌としての役割を果たし、追加して植えたワカメが1ヶ月半でここまで大きく成長し、収穫することができました。
今回の記事を見て、ワカメは緑色ではないの?!と思った方もいるのではないでしょうか?
実は、ワカメはゆでることで色が変わります。
(ワカメを茹でる)
さっと湯通しすると、ワカメは茶色から緑色に!
ポン酢やゴマだれで美味しくいただきました。
なお、たくさん収穫できたワカメは、湯通しした後、冷やして冷凍保存が可能です。
(ワカメしゃぶしゃぶ)
数か月でここまで大きくなるワカメは、海中の窒素やリンなどを取り込み、光合成により二酸化炭素を吸収し酸素を作り、また海の生き物の餌や棲み処となります。
さらに、ワカメが成長する過程で吸収した炭素の一部は、ワカメの組織中で海水に溶けにくい成分に変わります。それが海中に堆積したり、海の流れで運ばれ深海に沈み大気と隔離されることから、海洋生態系による炭素固定「ブルーカーボン」として、近年大きく注目されています。
ワカメを育てて食べることが、未来の地球環境を整えることにつながるなんて、すばらしいですね。
普段何気なく食べているワカメ、旬を味わいながら、私たちの地球の環境について思いを馳せてみませんか?
監修:特定非営利活動法人 海辺つくり研究会
http://umibeken.blue.coocan.jp/
監修:JFたろう岩手県・田老町漁業協同組合
http://www.masaki-wakame.com/wakame-grow.html
参考:日本わかめ協会
http://www.nippon-wakame.jp/
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