ホッケ、居酒屋から思いを馳せる大人の食育

お酒を飲むときにつまむ料理のことを「肴(さかな)」と言いますが、これが魚の語源です。 塩気があって脂がのった魚料理を、お酒を飲むときのアテに選ぶ方は多いと思います。今回はそんな居酒屋メニューでおなじみのホッケを通じて魚の資源管理について思いを馳せましょう。

お酒、特に日本酒やビールを飲むときにつまむ料理のことを「肴(さかな)」と言いますよね。実はこれが魚の語源だということをご存じでしたか?

むかしはお酒と共に食べる料理を「酒菜(さかな)」と言い、魚にかぎらず里芋でも漬物でもお酒のお供はすべて「酒菜」と呼ばれていました。「酒菜」はいつごろからか、中国で同じ意味の「肴(こう)」の字があてられます。江戸時代以降になると、お酒と共に魚が多く食べられるようになり、その結果、魚のことを「肴(さかな)」と呼ぶようになりました。

塩気があって脂がのった魚料理を、お酒を飲むときのアテに選ぶ方は多いと思います。今回はそんな居酒屋メニューでおなじみの、あの魚を通じて魚の資源管理について思いを馳せましょう。

ホッケはどんな魚?

大きなお皿から、はみ出さんばかりに盛られた熱々のホッケ――ご家庭のグリルではなかなか焼けないこの大きな魚を、居酒屋さんでつつくのを楽しみにしている方も多いでしょう。しかしこのホッケ、年々獲れる量が減少し、さらにサイズも小さくなっていると言われています。
居酒屋の定番、ホッケとはどんな魚なのでしょうか?

(キタノホッケ)

ホッケはカサゴ目アイナメ科ホッケ亜科の、ホッケ(マホッケ)とキタノホッケの2種をさします。
一般的にキタノホッケは魚体の縞模様からシマホッケと呼ばれています。お皿にのったホッケを裏返したときに、縞模様があるのを覚えている方もいるのではないでしょうか。実はスーパーなどで売っている開き干しの原料として輸入されているホッケの大半は、このキタノホッケなのです。
キタノホッケの成体は体長40cmほどで、ホッケ(マホッケ)がすむ水域よりもさらに寒い水域を好みます。主に分布しているのは、オホーツク海からベーリング海にかけてです。

(マホッケのオス)

一方のホッケ(マホッケ)は、北海道近海に生息します。北海道に生息するホッケは分布や産卵期の違いから、主に4つのグループに分けられると考えられています。

(ホッケ(マホッケ)の系群 出典:北海道立総合研究機構水産研究本部稚内水産試験場 さかなの基礎知識)

道北系群のホッケは、満2歳で体長26~28cm、満3歳で28~32cm、満4歳で31~34cmに成長します。一方、道南系群のホッケは成長が早く、満2歳で体長27~32cm、満3歳で29~34cm、満4歳で33~36cmと、生息域の水温によって成長速度にやや差が出るようです。

漁業者の間では、成長によってアオボッケ(幼魚)、ロウソクボッケ(1年魚)、ハルボッケ(2年魚で、その中でも春にとれるものは姫ホッケと呼ばれる)、ネボッケ(根に付いた成魚)、ヒガンボッケ(産卵魚)など成長の程度や生態の状況などで呼び名が変わります。1歳から2歳頃になると一部の個体が成熟し、3歳になる頃にはほぼすべての個体が成熟し、雄は産卵期に婚姻色が現れます。

ホッケが小さくなった理由

(炭火で焼いたホッケ)

ゆっくり成長しながら大きくなっていくホッケ。ホッケが小さくなったと言われる原因のひとつは、若齢のホッケを獲っていることが考えられます。

北海道立総合水産研究機構により算出されたホッケ道北系群の海域全体の年齢別漁獲尾数は、全体の漁獲尾数が減るなか、上半期では 1 歳魚、下半期では 0 歳魚の漁獲が主体となっています。

(ホッケ道北系群の半期別・年齢別漁獲尾数の推移
(水産資源調査・評価推進委託事業 我が国周辺水産資源事業 資源評価結果から引用)

また、買い負けや輸入ホッケの単価上昇も要因と推察されています。

昨今、人口の増加や健康志向の影響で、世界中で魚の需要が拡大しています。海外市場が強く高価格で取り引きできる国や地域に、多くの魚介類が買われています。日本がいわゆる「買い負け」しているのです。ホッケのように大きいサイズのものは、見た目が良いので人気があり、高値で取り引きされます。これはホッケにかぎらず、さまざまな魚介類でみられる現象です。

また単価の上昇は、価格を抑えるために切り身を100gから70gにすれば、買い付け価格が3割上昇しても、1切れ当たりの価格は同じになります。しかしながら、これらは見た目でわかるので、消費者にはボリュームが減ったことが一目瞭然でしょう。
このように、さまざまな要因によりホッケが小さくなっているものと思われます。

減少や小型化が心配されるホッケですが、今でも壮大な群れを見ることができます。
それは「ホッケ柱」と言って、5月中旬のプランクトンの大発生に合わせ北海道の奥尻島や利尻島周辺に発生する現象です。
2~3歳のホッケの群れが、潮目にいるプランクトンを食べようと集まり、海の中にまるで柱がたっているように見える現象のことを言います。

(ホッケ柱)

ホッケには浮袋がありません。そのため普段は海底に生息しています。この時期プランクトンを捕るためにホッケが餌に向かって上向きに泳ぐと下降流が生じます。一匹のホッケがつくる流れは小さくても、3万~6万匹の群れが上向きに泳ぐと大きな流れができます。この行動は、海面近くにいるプランクトンを、水流を使って下流に引き込んでいるのではないかと考えられています。

農林水産省が推進する、食育月間は6月とまだ先ではありますが、ホッケは酒の肴のイメージがあり、身離れがとてもよく、骨を外すのが苦手な小さなお子さんにも向いている魚です。
焼きたてのホッケをつつきながら、ホッケを通して食育にも取り組んでみませんか?