日本のサバ資源を調べてみた 夏休みのSDGs~海の豊かさを守ろう 日本の今をデータから見てみよう!

SDGsの14番「海の豊かさを守ろう」の項目で、日本の達成状況は、「赤:重要な課題が残っている」が2020年から3年連続で続いています。2022年もその進捗は横ばいです。 世界の漁業生産量と比較して、日本の漁業生産量は減少しています。魚を獲る量が減っているのになぜ達成できないのでしょうか。 今回は、重要な課題となったままの現状を、日本人に身近な魚“サバ”に注目して見ていきましょう。

SDGsの14番「海の豊かさを守ろう」の項目で、日本の達成状況は、「赤:重要な課題が残っている」が2020年から3年連続で続いています。2022年もその進捗は横ばいです。

(出典:sustainable development report2023)

世界の漁業生産量と比較して、日本の漁業生産量は減少しています。魚を獲る量が減っているのになぜ達成できないのでしょうか。

今回は、重要な課題となったままのSDGsの目標14番の現状を、日本人に身近な魚“サバ”に注目して見ていきましょう。

日本における資源管理~マサバ太平洋系群

マサバは太平洋系群と対馬暖流系群、ゴマサバは太平洋系群と東シナ海系群の資源に分かれており、資源管理もその4系群で行われています。

その主力は約65%を占める、下図のマサバ太平洋系群です。

(マサバ太平洋系群分布図)

「日本にはどれくらいサバ類がいて、どれぐらいの量を獲っても大丈夫なのか?」を知るために、水産庁と国立研究開発法人 水産研究・教育機構が毎年調査を行い公開しています。

まずはその公開資料「令和4年マサバ太平洋系群」に関して見てみましょう。

このグラフにある年齢別漁獲尾数の推移を見ていくと、1970年代後半からマサバの漁獲量は大きく減り、2011年以降増え始めていることがわかります。

日本で獲れるサバの寿命は7~8年程度です。しかしこのグラフからもわかるように、3歳までの若いうちに漁獲されてしまいます。このため7~8歳になる前に、ほとんど漁獲されてしまい、6歳以上の漁獲が少ないこと推察されます。

「若く比較的小さいサバが多い」ということは、サバが成長する前に一網打尽になっていることがうかがえます。結果的に年齢に連れて大きくなるものはごく少数となってしまいます。これを「成長乱獲」といいますが、サバにかぎらず、日本ではさまざまな魚種で起きている現象です。

2011年3月に起きた東日本大震災を境に、サバ資源がやや回復したことがわかります。
当時、3~6月頃の産卵期にかけてのマサバ漁が、放射性物質による汚染の懸念からほとんど行われませんでした。このためマサバが産卵期の漁獲を逃れて、大量に産卵できたことが推察されます。

そして2011年に生まれたマサバは2013年から成熟して産卵を始め、その年に生まれたマサバがたくさん生き残り(卓越級群といいます)、資源量を増やし続ける好循環が生まれているのがわかります。

2014年には1歳魚(オレンジの層)の構成比が高く、2015年には2歳魚(グレーの層)の構成比が高くなっています。そして2016年(3歳魚:黄色の層)、2017年(4歳魚:水色の層)と、数を減らしながらも成長しています。つまり2011年の影響をこのグラフから追うことができるのです。

資源管理TACとは

水産資源管理は、TAC(漁獲可能量)とよばれる、科学的根拠に基づいて設定される漁獲量をもとに行われます。

令和2年12月1日に新漁業法が施行されました。
「新漁業法においては、資源評価に基づき、持続的に生産可能な最大の漁獲量MSY(最大維持可能漁獲量MSY:Maximum Sustained Yield )の達成を目標とし、数量管理を基本とする新たな資源管理システムを導入すること」としています。
その管理システムが、漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)対象魚種を選定し、TAC管理をするというものです。

毎年、資源評価のデータを用いて「水産資源に関する検討会」や「資源管理方針に関する検討会」などが行われ、水産政策審議会と農林水産大臣で諮問と答申を行い、次年度の目標管理基準値であるTACが算出されています。

(TACを知る TAC基本計画策定より抜粋)

聞きなれない「最大持続可能量(MSY)」についても少し解説したいと思います。

古典的MSY理論によると、水産資源は、漁獲により資源が減少すると自然の回復力が働いて増加します。
増加量(回復量)は資源量の増大に 伴い増えますが、資源量がある程度以上になると餌の配分により成長や生存率が減るので一定以上の増加はありません。
そうすると、 回復量と同じ量だけ漁獲すれば、資源量は一定の水準で維持されると考えられます。
当たり前ですが、回復する量以上に漁獲すれば資源量は減少し、それに伴い、回復量も変化することになります。
回復量が最大になる資源量を上限として、その増加した分を漁獲すれば、資源量を保ちながら最大の漁獲が続けられる、というのが考えの基本になります。

(新たな資源管理について資料4 令和元年7月 水産庁 資料より抜粋)

日本のMSY達成基準は、資源状態が悪いものでMSYの50%、良いものではさらに高いパーセントで設定されています。
SDGsにおけるMSYレベルまでの資源回復期限は2020年でしたが、まだ目標には至っていないようです。

適切な漁獲をするために、資源調査からMSYを見極め、TACを決めて適切に漁獲することが大切ですね。

公開されている漁獲可能量(TAC)と漁獲量の推移をグラフにしてみました。
2006年以降、漁獲可能量TACを上回る漁獲量は記録されていません。TACと漁獲量の開きの差が大きな年は漁獲量がTACの約1/2にもなる年もありました。TACほどの資源量が無いのか?はたまた、TACが漁獲可能量として多すぎるのでしょうか?

TACが大きくても獲れないということは、魚を獲らないのではなく、資源量自体が少ないため獲れない状況にあるのかもしれません。SDGsの14番における日本の推進状況の評価が赤のままになっているのは、そのようなこと一つをとっても残念ながら現状のようです。

世界からの監視の目

国連はSDGsの目標14番”海の豊かさを守ろう”の中で、水産資源を2020年までにMSY(最大持続生産量)に回復させるため、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業やIUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)及び破壊的な漁業慣行を終了して、科学的な管理計画を実施するとしていました。多くの国が目標を達成すべく、その取り組みをしています。

生産量回復の予測は、各国で科学に基づく運営政策実施の必要性が受け入れられるようになってきているということがあるようです。しかし、それでもなお、海の豊かさを守り切れていない現状にあります。

6月8日は世界海洋デーでした。アントニオ・グテーレス国連事務総長は「人類に起因する気候変動によって地球の気温は上昇し、気象パターンや海流が乱れ、海洋生態系とそこに暮らす種に変化が起こっています。海洋生物多様性は、魚の乱獲、過剰搾取、海洋酸性化によって攻撃を受けています。漁業資源の3分の1超が、持続不可能なレベルで捕獲されています」とメッセージを出しています。

(2022年SOFIA 世界漁業・養殖業白書(FAO国連食糧農業機関)より作成)

この表は、国連食糧農業機関(FAO)が、2020年比で2030年の漁業・養殖業の生産量を予測した数字です。
日本は世界各国と比べマイナスとなっている数少ない国の一つになっています。では、多くの国では生産量が増えているのはなぜなのでしょう?

夏休みもあと少し、自由研究では、日本における魚の資源管理に注目し、問題意識をもって、この疑問も考えてみてください。 各機関が公表するデータを探し、何が本当なのかを調べ、それをまとめてみるのはいかがでしょうか。
日本における海の豊かさをみんなで守っていきたいですね。

umito.”サバペディア”ではサバの漁獲や資源量など、サバに関するあらゆる情報がつまった専門サイトを、公開しています。ぜひ、そちらもご覧ください。