どんな小さな魚のピクトグラムにも必ず描かれている「ヒレ(鰭)」。ヒレは魚という存在を象徴する身体的特徴のひとつです。魚という漢字の成り立ちでも、ヒレが「よつてん」へと変化してきたことなどからも、その存在は欠かせません。
今回は、魚ごとにユニークな特徴のあるヒレについてみていきましょう。
(チダイ)
大多数の魚に備わっているのが、背鰭、臀(しり)鰭、尾鰭、胸鰭、腹鰭の5つ 。
でも、これだけではありません。マグロには、背鰭と臀鰭の後方にノコギリの歯のようにギザギザした小離鰭(しょうりき)がついています。
一方サケ・マスの仲間には、背鰭の後方に膜のような脂鰭(あぶらびれ)があります。このほかにも、トビエイのように頭鰭(とうき)をもつ魚もいます。このように魚によってヒレの有無が変わってきます。
(上:シシャモ(オス)と下:カラフトシシャモ(メス))
また、ヒレは魚の種類や雌雄を見分けるのに役立ちます。たとえばカラフトシシャモ(カペリン)。オスはメスよりも臀鰭が大きく、雌雄を見分ける際の目安です。
マサバは第一背鰭のトゲの数が9~10本、ゴマサバは10~13本と、サバの種類によっても背鰭のトゲの数が違います。
といってもヒレ本来の目的は、人間が魚を区別するためのものではありません。左右のヒレを推進のために使ったり、背鰭や腹鰭のようにバランスを保ったりするなど、運動を作り出すことが本来の目的です。
これを応用して、ロケットや海中ロボットの機能や設計の参考に使われています。
形状や機能などユニークなヒレをもつ魚は数多く存在します。たとえばマンボウ。腹鰭のない代わりに、背鰭と臀鰭が変化した独特な舵鰭(だき)がズングリとした円盤状の体に備わっています。
(マンボウ)
また堤防などで釣れることもあるハナミノカサゴは見た目はとても派手で華やかですが、実はヒレは毒だらけ。この翼のような胸鰭を使って、捕食活動を行います。
(ハナミノカサゴ)
名前に「ヒレ」のついたトクビレのオスは、身体に比して第2背鰭と臀鰭が異常に大きいのが特徴。臀鰭に大きな黒い斑点をつけたセミホウボウは胸鰭を扇状に拡げた姿が印象的で、砂地のダイビングスポットで見かけることも多い魚です。
器用にヒレを使う魚といえば、やはりトビウオ。尾鰭を左右に振って海面をジャンプしたのち、大きな胸鰭を主翼、腹鰭を水平尾翼にして滑空します。またティクタアリクという古代魚類は約3億7500万年前、大きくて自在に動く臀鰭を使って陸上を動いたとされ、肢へと進化したと考えられています。
(ジャンプして滑空するトビウオ)
すべての魚にありそうなヒレですが、ヤツメウナギなどの無顎類には全くありません。他の魚類から早い段階で分岐したことが、ゲノム解析で判明しています。
魚にとって欠かせないヒレ。われわれ人間も大きな恩恵を受けています。中華料理の定番フカヒレ(サメのヒレ)以外にも食べられるヒレは多く、バラエティーに富んだ料理が考案されています。たとえばフグのヒレ。火で炙って熱燗に入れるとひれ酒の完成です。またエイヒレはから揚げやみりん干しの炙り焼きなど、居酒屋の定番メニューとして酒の肴にもってこいです。
(エイヒレ)
あんこう鍋の具材でもある通称「アンコウの七つ道具」。こちらにもヒレが数えられ、捨てるところのない高級食材として重宝されます。
魚にとって、運動するのに不可欠な器官のヒレ。魚の生育環境や生態に密接に関わっており、それぞれ独特なヒレをもっています。魚を見かけたときは、ヒレに注目すると新たな発見があるかもしれませんね。