秋の味覚の代表ともいえるサンマ。脂がのったおいしいサンマが、手ごろな価格でたくさんお店に並ぶ姿は日本の風物詩です。
ところがそのサンマ、水揚げ量が減少傾向です。 2017年には水揚げが大きく減少し、半世紀ぶりの凶漁といわれました。翌2018年はいくらか持ち直したようにも見えましたが、今年(2019年)は、2017年の水揚げのペースを10月中旬現在では下回っています。 そこで今回はサンマの産卵や生息域、そしてなぜ減っているのかなど、私たち日本人に身近なサンマのあれこれを整理してみました。
(マサバ太平洋系群の生活史と漁場形成模式図)
まずサンマを知るために、同じく青物といわれる太平洋で獲れる(太平洋系群)マイワシやマサバと、サンマの分布図を比較してみます。
上の図でオレンジ色の部分が、マサバの産卵場といわれている海域です。日本沿岸に近い場所であることがわかります。一方で濃い緑色や薄い緑色の場所が、エサを食べたり、生育したりしている海域です。EEZ(排他的経済水域)からは、はみ出して回遊している時期があるものの、日本の近くを行き来しています。
(マイワシ太平洋系群の生活史と漁場形成模式図)
次にマイワシですが、こちらもマサバ同様、オレンジ色の部分が産卵場です。そしてエサを食べたり、生育したりする分布海域(黄色・緑)も、マサバと同じようにEEZの外側にも広がっているものの、マイワシもマサバも太平洋系群については日本のEEZ内で産卵し、一部の魚群がEEZからはみ出して回遊するという、似たような分布であることがわかります。
(サンマ漁獲量の推移(1950~2018年)漁業・養殖業生産統計年報(農林水産省)、NPFCの資料、FAOを素に作成)
そして最後にサンマの回遊範囲を見てみましょう。黄緑色のエサを食べて育つ海域(夏季)や、オレンジの産卵場や生育場(冬季)が広範囲にわたることがわかります。オレンジ色の産卵場は、日本のEEZ外にも広がっています。
ただし、サンマが集まる漁場となると、海域が限定されてきます。これまで私たちが食卓で食べているサンマは、水色のEEZ内で漁獲されたものが主に供給されてきました。
一方で日本の漁場のすぐ横のピンク色は、近年日本の漁船も進出するようになりましたが、主に台湾や中国をはじめとする外国の漁船が獲っている漁場です。この海域を「公海」と言います。公海での漁業には「公海自由の原則」が適用され、魚を自由に漁獲することができます。このため獲りすぎて資源が減ってしまう恐れがあり、近年国際ルールを定める議論が始まっています。しかし、漁獲量などのルールが決まっても、漁獲枠が大きすぎれば実質獲り放題のようになってしまいます。そこで科学的根拠に基づく、サステナブルな漁獲量での合意形成が求められます。
このように、サンマはマサバやマイワシよりも回遊範囲が広範囲にわたるため、サンマ資源に関しては「国際資源」に分類されているのです。
(サンマの分布域(索餌場と産卵・生育場)と日本漁船及び外国漁船の主漁場位置)
上のグラフは、サンマの国別漁獲推移を表しています。棒グラフの赤い部分が日本の漁獲量です。2000年以前は日本の漁獲量の占める割合は全体の8割以上でした。しかし徐々に割合は落ち込んでいき、2018年ではその比率が29.4%となり、ついに3割を切っています。
上の表からは、全体の漁獲量が減り、日本の漁獲量の比率も減っていることが読み取れます。そのため、以前は日本では大衆魚だったサンマが日本国内で減ってしまい、家計にも影響してきているのです。
(水産研究・教育機構のサンマ資源量直接推定調査(6~7月)で推定された2003~2019年のサンマ分布量と日本のサンマ漁獲量)
今度のグラフは、サンマの分布量と漁獲量の推移を表しています。今年2019年の分布量は推定で142万トンと、前年の2018年の205万トンから減少しています。この数字は半世紀ぶり凶漁であった2017年の86万トンに次いで少ないという調査結果です。ところがその数量は、残念ながら10月中旬までは、2017年の水揚げを下回るペースでした。
ところで、昨年比だけで比較してしまうと、分母になる数量は年々減っていますので、少しでも増減すると前年比何割の「豊漁」「不漁」という報道になりがちです。しかし冷静になって10年前、20年前の漁獲量と比較した上で考えていかないと、いつの間にかサンマが減ったことに慣れてしまう恐れがあります。
前述のとおり、サンマは国際資源です。日本の秋の風物詩とはいえ、日本ばかりが独占するわけにはいきません。これからはグローバルな視野を持って、日本そして世界中がサンマを食べ続けられるための仕組みを考えていかなければならないのではないでしょうか。