私たちが一般に「アジ」と呼ぶときには、ほとんどの場合「マアジ」をイメージしていると思います。しかしアジの仲間は全世界に約30属150種が生息しており、マアジ以外にもいろいろなアジがいます。ブリやヒラマサなどもアジ科の魚です。今回はその中から高級魚「シマアジ」にスポットを当てていきます。
(左:シマアジ 右:マアジ 赤い四角の部分がゼイゴ)
シマアジはアジ科シマアジ属(マアジはアジ科マアジ属)の魚で、側面にはマアジのように稜鱗(りょうりん/ゼイゴ)と呼ばれるトゲ状の鱗があります。シマアジでは体長1cmの稚魚期にが他の鱗に先駆けて尾の付近から側線に沿って発達します。この稜鱗は同じアジ科の魚でもブリにありません。
マアジに比べて体高が高いのが特徴で、1メートル前後まで成長します。マアジを見慣れているとその迫力に驚くことでしょう。
名前の由来は、体側に頭から尾にかけて黄色い縦縞があることから縞アジ(シマアジ)と呼ばれるようになったという説や、伊豆七島でよく獲れることから島アジ(シマアジ)になったという説があります。アジの語源は諸説ありますが、「味」の良さから名付けられたとも言われています。
(シマアジ)
シマアジは、養殖ものが2千円/1kg前後ですが、天然ものは5千~1万円/1kgほどの値が付くことのある高級魚です。味や値段、そして釣りの対象魚としての人気から「アジ界の王様」と呼ばれることもあります。伊豆諸島では大型の個体をオオカミと呼び、釣り人憧れの魚です。
シマアジは、吻(ふん…口のまわり)が眼径(がんけい…目の直径)よりも長く、前に突き出ています。口は漏斗(ろうと)のようになっていて、蛇腹状に伸ばすことができます。この伸びる口を使って砂を海水ごと飲み込み、砂の中にいるゴカイやエビ・カニなどの甲殻類を、エラで濾し取って捕食しています。
大きくなると魚類も捕食するようになりますが、シマアジには歯がないため、小魚の群れを海水ごと吸い込んで餌を獲ることが多いようです。
口の蛇腹部分は薄い膜になっているため、釣り針が掛かったときには口が切れて針が外れることも多く、釣り人からは「ガラスの唇」と呼ばれています。釣るのが難しいところも高級魚たるゆえんかもしれません。
(シマアジ刺身用の柵)
アジ科の魚のほとんどは食用に向いており、また、世界中に広く分布しているので、アジ科の魚は世界各地で重要な食料源になっています。
シマアジにはオメガ3脂肪酸の1種、DHAやEPAが豊富に含まれています。さらにアルギニンやアラニンといった甘味として感じられるアミノ酸や、うま味成分となるグルタミン酸なども含まれています。
うま味成分の一つであるイノシン酸は、魚の死後ATP(アデノシン三リン酸)が変化して時間とともに蓄積していく有機化合物です。そのため好みもありますが、釣れたてのシマアジよりも、ある程度時間の経ったシマアジの方がおいしいという人もいます。
(出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂))
シマアジはマアジよりも脂の乗りが良く、身質はブリに似ているため、新鮮なシマアジの刺身は絶品です。最近では養殖のシマアジが出回っていますが、養殖ものは脂が多いため好みが分かれるところでしょう。
「アジの王様」と呼ばれるシマアジですが、資源評価対象魚種※に加わったのが令和3年から。近年の漁獲量の合計値は年間11~16トンで推移していますが、データの存在しない都道府県があるために全国的な漁獲高はわかっていません。しかしながら、現在では養殖が可能となったことに加え、海外での人気も相まって、生産量は徐々に増加しています。
漁獲可能量(TAC、Total Allowable Catch)制度の対象魚種でTACの対象魚種は(1)漁獲量が多く、国民生活上で重要な魚種(2)資源状態が悪く、緊急に管理を行うべき魚種(3)我が国周辺で外国人により漁獲されている魚種などを基準に選定されている主要水産資源です。
(シマアジの養殖収穫量)
主な養殖の産地は愛媛県、熊本県、大分県など、比較的温暖な気候の地域で行なわれています。
(シマアジの養殖 都道府県別構成比)
美味で身も大きいシマアジを、今後はどんどん増やしていきたいところですが、シマアジは胃袋が小さく、食いだめができないため、成長のスピードが遅いという課題を抱えています。シマアジが安価で流通するためには、この課題の克服がカギになるでしょう。
マアジとシマアジ、両者ともアジ科に属し、名前もたった一文字違いですが、値段・味・姿かたちは大きく異なります。機会があれば、ぜひ食べ比べてみてくださいね。