魚とヒスタミン&ヒスチジン

「魚を食べて蕁麻疹(じんましん)が出たことがあるので魚は苦手」――こんな話を聞いたり、経験したりしたことはありませんか? たとえ大好物であっても、体に不調が出てしまったら、それ以降食べることをためらってししまいますよね。 ではいわゆる魚に「あたる」とは、どのような状態を指すのでしょうか?

「魚を食べて蕁麻疹(じんましん)が出たことがあるので魚は苦手」――こんな話を聞いたり、経験したりしたことはありませんか?
たとえ大好物であっても、体に不調が出てしまったら、それ以降食べることをためらってしまいますよね。

では、いわゆる魚に「あたる」とは、どのような状態を指すのでしょうか?

魚に“あたる”とは

魚を食べたあとに食中毒のような症状が出た場合は、①アニサキスなど寄生虫による食中毒、②魚のタンパク質に対する魚アレルギー、③魚に寄生しているアニサキスのタンパク質に対するアニサキスアレルギー、④ヒスタミンによる食中毒、⑤腸炎ビブリオ菌など食中毒菌によるものの5つが主に考えられます。

今回は、その中でもヒスタミン食中毒についてみていきたいと思います。

ヒスタミン食中毒とは?

ヒスタミンによる食中毒は、ヒスタミンが高濃度に蓄積された食品――特に魚やその加工品を食べることにより発症する「アレルギー様」の食中毒です。アレルギー様とは、免疫反応異常によっておこる食物アレルギーとは発症機構が異なりますが、症状が似ているのでアレルギー様といわれています。

ヒスタミンは、食品中に含まれるアミノ酸の一種「ヒスチジン」に、ヒスタミン産生菌の酵素が作用して変換されることで生成されます。

(出典:ヒスタミンによる食中毒について(厚生労働省))

ヒスチジンが多く含まれる食品を、不適切な管理状態で保存してしまうと、食品中のヒスタミン産生菌が増殖し、ヒスタミンが生成されてしまうのです。

ヒスタミン食中毒はヒスチジンを多く含むマグロ、カツオ、ブリ、サバ、サンマ、イワシ、アジ、サワラなどの赤身魚および、それらの加工品が原因として知られています。

(出典:魚種別ヒスチジン含有量(消費者庁))

ヒスタミン産生菌は多くの種類が存在しますが、このうち赤身の魚などの食中毒に関係する菌は2種類います。
一つは海水中にいる海洋性ヒスタミン産生菌で、魚のエラや消化管などに付着しており、もう一つの人や動物の腸内にいる腸内細菌科細菌は、水揚げ後に魚を下処理する時などに付着する可能性があります。
どちらも不適切に扱うと増殖の可能性があります。

ヒスタミン食中毒はどう防ぐ?

(魚の温度管理が重要)

ではヒスタミン食中毒を防ぐには、どうしたら良いのでしょうか?

ヒスタミン食中毒を防ぐには、ヒスタミン産生菌の増殖と酵素作用を抑えてヒスタミンを生成させないようにします。原材料となる魚はもちろん、魚を加工した製品が食卓にあがるまでの一貫した温度管理が重要です。

なお、厚生労働省では、下記の対策を推奨しています。
・魚を常温で放置しない。速やかに冷蔵庫などで保管する。
・ヒスタミン産生菌はエラや消化管に多く存在するので、魚のエラや内臓を購入後はできるだけ早く除去する。
・鮮度が低下した恐れのある魚は食べない。
・ヒスタミンを高濃度に含む食品を口に入れた時に、唇や舌先に通常と異なるピリピリとした刺激を感じたら食べずに処分する。

食中毒の中には、加熱によって菌や寄生虫を駆除できるものもありますが、ヒスタミンは熱に強く調理加工でも除去できないため、いったん生成されるとヒスタミンによる食中毒を防ぐことはできません。

ヒスチジンは必須アミノ酸

(正しい知識で安全に魚を食べよう)

ヒスタミンのもとになるヒスチジンは、子供の発育期に欠かすことのできないアミノ酸です。子供の体内では合成できず、大人になると合成できるようになります。ヒスチジンは、体内で合成できる必須アミノ酸という特殊な性質を持っているのです。

以前、ヒスチジンは乳児期では準必須アミノ酸とされ、それ以降の年齢は非必須アミノ酸とされていました。しかし大人でもヒスチジンが不足すると、体内のバランスが崩れて皮膚や神経系に異常が現れることが確認されたため、1985年より必須アミノ酸として扱われています。
「ヒスタミン」と「ヒスチジン」、よく似た響きですが、一方はアレルギー様の食中毒を起こす物質で、一方は必須のアミノ酸。ちょっとややこしいですね。

厄介なヒスタミンですが、さまざまな生理機能を担っています。そのため、ヒスタミンのもととなるヒスチジンも、私たちには欠かせない大事なアミノ酸なのです。

とはいえ、ヒスタミンを食品から過剰に摂取してしまうと、上記に示したように食中毒になる恐れがあります。
安全に魚を食べるためには、一人一人が正しい知識を持つことも大切ですね。