魚にまつわる輸出の話

近年、日本の水産物の輸出金額が増加を続けています。 政府が2013年に策定した農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略は、2020年に3,500億円の輸出金額を達成することを目指していました。しかしながら、輸出好調にともない、2016年に目標を一年前倒しして2019年度での達成方針を示しています。

水産物の輸出増は国家戦略

近年、日本の水産物の輸出金額が増加を続けています。 政府が2013年に策定した農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略は、2020年に3,500億円の輸出金額を達成することを目指していました。しかしながら、輸出好調にともない、2016年に目標を一年前倒しして2019年度での達成方針を示しています。 ちなみに、2012年に1,700億円だった実績は、2018年には3,031億円まで増加しています。

また、水産物を含む農林水産物及び食品の輸出金額については、2020年に1兆円の輸出目標が掲げられていましたが、同じく1年前倒しの2019年となり、さらに2030年には、その5倍の5兆円の目標となっています。人口増加や国際化、物流技術の発達にともない、食品に対する需要が増え、貿易が活発になってきています。

(水産白書 我が国の水産物輸出量・輸出金額の推移)

活発化する輸出入

(水産白書 世界の水産物輸出入量の推移)

世界全体の水産物の輸出入推移を表しているのがこの2つのグラフです。傾向は一目瞭然で、輸出入とも増加傾向であることがおわかりになると思います。

(水産白書 世界の水産物価格の推移)

「世界の水産物価格の推移」のグラフでは、今後水産物の中長期的な価格の上昇が予測されています。新興国で新しい需要が生まれ、それが市場価格として定まってくると、新たな相場帯が形成されていきます。

たとえば、アジやサバといった比較的価格が安い魚は、アフリカ市場が下支えになり、最低価格が上がることで、全体の市場価格が押し上げられる、といった傾向にあります。 アジフライなどの原料として、1990年代にFOB(本船渡し価格)でトン当たり400米ドル程度で流通していたアジは、2000年前後になると価格が高騰し始め、現在では1990年代の約4倍の価格になっています。このため、脂がのった柔らかい欧州産のアジフライをお店で一枚100円で売ることが難しくなってしまいました。これはほんの一例ですが、安い原料の魚が世界で消えつつあります。

日本の潜在力

(水産白書 主要国・地域の水産物輸出入額及び純輸出入額)

次に水産物の輸出を見てみましょう。グラフを見ておわかりの通り、日本は輸出量よりも輸入量が大幅に多い輸入大国です。しかし今回は、今後伸びることが期待されている水産物の輸出について解説していきます。

(水産白書 我が国の水産物輸出相手国・地域及び品目内訳)

2018年で輸出金額が一番多いのはホタテガイ(15.7%)です。次いで真珠(12.3%)、サバ類(8.8%)、ブリ(5.2%)といった順になっています。ホタテガイの6割は中国向けが占め、真珠の83%が香港、サバは85%がアフリカと東南アジア、ブリの81%は米国向けといったように、アイテムごとに偏った傾向が見られます。

(輸出には比較的小型のサバが使われる)

求められる水産物

輸出の際の成否を決定づける要因として、「品質」や「価格」といった条件がまず思い浮かびますが、実際には欧米を中心として、それ以前に必要な要素があります。それは、IUU「違法(Illegal)・無報告(Unreported)・無規制(Unregulated)」漁業の廃絶です。 まずはこのIUU漁業のものではないことが前提となり、これらをクリアした水産物が次の条件に進むという形が広がってきています。

世界では、IUU漁業の水産物を扱わないという強い意志の下、各国が動き始めています。輸出に際しては「漁獲証明書」と呼ばれる、その魚の出所の証明が求められるようになってきました。EUでは「漁獲証明書」がないと輸入できません。

水産エコラベルによる認証

国際的な認証ラベルであるMSC認証の有無が、すでに天然魚については欧米を主体に不可欠になりつつあります。出所がわからないものは敬遠されますし、販売対象がサスティナブルな方法で漁獲されているかどうかは、重大な関心事になっています。

2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の14(海の豊かさを守ろう)への貢献につながるこのラベルが、消費者がサスティナブルな水産物を選択するためのツールとして貢献しています。

水産物の貿易はこれからも活発な状態が続く傾向にあります。しかしながら、その対象となる魚の供給は限られています。獲れば売れる、輸出すれば売れるからと獲り続けていくことは大変危険なことです。

そこで、魚を減らさずに獲り続ける最大数量、MSY(最大持続生産量:Maximum Sustainable Yield)による資源管理が、2018年12月に改正された漁業法で適用されることになり、準備が進められています。この新しい法律によって、日本でも資源の持続性を考えた輸出が増えていくことが期待されています。