秋が旬の魚といえば、秋刀魚がまず思い浮かびます。名前の漢字にも秋が入っているほど。しかし、秋刀魚以外にも秋に旬を迎える魚はたくさんいるんです。
一般的に“旬”とは、食材のもっとも美味しい出盛りの時期のことをいいます。野菜や果実だとこれがそのまま当てはまりますが、魚の場合は「その魚の味が一番美味しい時期」と、「その魚がよく獲れる時期」が必ずしも一致しません。なので、どちらの場合も旬と呼んでいることが多いのです。
秋に美味しい魚を知ってほしいので、今回は特に「味が一番美味しい時期」にこだわって、秋刀魚以外で秋が旬の魚を紹介します。
旬は魚の味が一番美味しくなる時期のこと――というけれど、もう少し具体的にいつがその時期なのか知りたいですよね。そしていったい私たちは何を感じとって美味しくなったと思うのでしょうか。
多くの魚は産卵前に子孫を残すためにたくさんエサを食べて、脂肪やうま味成分であるアミノ酸を貯えます。魚体に脂がのり、うま味成分が増すために私たちは美味しいと感じるのです。ただし、産卵の直前や直後は、栄養分が卵や白子の方に行ってしまうという特徴があります。旬という言葉は、脂がのっておいしい時期という意味だけでなく、魚がたくさん獲れて水揚げが多い時期も指すようです。
(水揚げされた北海道の鮭 )
秋鯖、秋鮭(シロサケ)のように名前の頭に秋をつけて呼ばれる魚は、秋が旬の魚です。
鯖は日本各地で獲れる魚ですが、春に南の海域で産卵すると北上し、秋から冬になるとまた南下するというふうに、移動して生活する回遊魚。産卵でやせた鯖は、北の海でエサとなるプランクトンをたくさん食べ、秋になって南下してくる頃にはしっかりと脂がのって美味しくなっているのです。
秋鮭は遠くベーリング海やアラスカ湾で成長し、成熟した鮭が生まれ故郷の川に産卵に戻ってきたもの。川を上る前に沿岸で獲れた鮭は、白子や卵の成長のために体脂肪を使っているので成熟前のものよりは脂はありませんが、卵であるイクラが好まれており、身は塩鮭などとして秋の売り場に旬を感じさせる商材として並びます。
(左:戻り鰹 右:初鰹 断面模型)
旬が2回ある魚、カツオでも紹介したように、カツオは戻り鰹と呼ばれる秋に2回目の旬を迎えます。熱帯や亜熱帯の海から北上し、早春から初夏にかけて初鰹として最初の旬を迎えたカツオは、エサが豊富な三陸沖に夏の間留まります。そうすることで移動によるエネルギー消費が抑えられ、またエサをたくさん食べるために身に脂がのるのです。秋に三陸沖から南下してきた戻り鰹、グラム当たりのカロリーは初鰹の約1.5倍にまで高まっています。
魚偏に春と書く鰆(サワラ)、俳句でも春の季語ですが、主産地である北陸から山陰の日本海側では脂がのった秋からが旬とされています。ではなぜこのような漢字で季語なのかというと、産卵のための瀬戸内海沿岸に寄って来る、「よく獲れる時期」が春だからです。
(ハモ)
天神祭や祇園祭りの料理で欠かせない、関西では夏の味覚として知られているハモ。「梅雨の水を飲んで美味くなる」といわれるほどですが、身の成分分析の結果からは9月以降の秋に美味しい旬を迎える魚であることがわかりました。
秋は魚だけではなく、農作物の多くが旬を迎える季節です。美味しくて栄養のある旬のものを食べて、毎日を心豊かに、健やかに過ごしたいですね。