蒲鉾(かまぼこ)や竹輪(ちくわ)、はんぺん、つみれ、さつま揚げ、魚肉ソーセージ、そしてカニカマ――これらはどれも魚のスリミを使った食品です。一口に「練り物」といっても、味はもとより食感や調理法もさまざま。きっと誰でもお気に入りの練り物があるのでは?
今回はスリミの歴史や、スリミを原料とした加工食品「練り物」の特徴など、スリミと練り物の魅力に迫ります!
(これを何と呼びますか?)
魚をスリミにして利用した食品が、初めて日本の文献に登場したのは、平安時代の後期、1115年といわれています。『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)』という、この時代の儀式や行事での道具類などを図解した書物のなかに、お祝いのお膳に蒲鉾という文字とともに竹輪のような一品が登場しています。
九百年以上も昔に、平安貴族が祝いの席で舌鼓を打っていた、とっても雅な食品だったのですね。
スリミや、スリミを使った練り物は長い間、土地の魚を美味しく保存して食べるために地域の食文化として根付いたいわゆるローカルフードでした。
その証拠に同じようにスリミを揚げたものでも、地域によって呼び名がずいぶん違うものがあります。たとえば“揚げかまぼこ”。関東を中心に“さつま揚げ”と呼ばれる揚げた蒲鉾は、関西地方では“天ぷら”、ご当地感のある鹿児島県では“つけ揚げ”と呼ばれています。では天下分け目の東海地方、どこまでが“さつま揚げ”で、どこから“天ぷら”なのか調べてみると――なんと!東海地方では“はんぺん”と呼ばれていました。
そんなスリミの利用が大きく広がったのは、1960年に「冷凍スリミ」の技術が開発されたことがきっかけです。
北海道立水産試験場の研究グループが、北太平洋の豊富なスケトウダラ資源を利用するために研究開発を行ったことによるものでした。
そのおかげで洋上の加工船や最寄りの港の工場で加工されたスリミは、急速凍結されて鮮度を保ったまま流通できるようになりました。今ではスリミは「SURIMI」として、世界中の人に愛される国際派食品です。
日本発! 魚の「スリミ」箱に書かれれている文字は?
料理は、素材そのものの持ち味を最大限に活かすのはもちろん、調理の仕方次第で美味しくなるのも真理。練り物の弾力はお刺身や煮魚にはない特有の魅力です。この弾力はどこから生まれるのでしょうか。実はそこには魚の身の主成分であるたんぱく質の変化が関わっています。
魚の身をつくっているたんぱく質の約60~75%が、筋原繊維たんぱく質という繊維状のたんぱく質。その筋原線維たんぱく質は塩水に溶け出す性質があります。
すり身を作るときには魚の身に塩を加えてすりつぶすのですが、このとき筋原線維たんぱく質は溶けて繊維が短くなり、間に水分を保つ形で複雑にからみ合うようになります。
これに熱を加えることでからみ合った構造が固定され、あの独特の弾力のある食感が生み出されるのです。
ちなみに麺の弾力のことを「コシ」といいますが、スリミの場合は「足」といいます。ちょっと面白いですよね。
お好みの魚の切り身を使って、スリミを作ってみましょう。
材料は魚の切り身、塩、水、サラダ油です。フードプロセッサーを使って手軽に作ることができます。
魚の種類によっても味や食感が異なります。動画レシピを参考に、あなたのお好みのスリミを作ってぜひみてください。
(いろいろな魚の練り物)
スリミは原料になる魚によって、食味や加熱した際の弾力などがさまざまです。また地域によって好まれる特徴も異なるので、一概にどの魚のスリミが一番とはいえません。現在練り物には白身の魚を中心に数十種類の魚のスリミが使われています。
その中でも竹輪や蒲鉾などには、身が白く弾力が強いスケトウダラやイトヨリダイが、つみれや黒はんぺんにはイワシやアジ、サバ、サンマなどが使われています。
真っ白なはんぺんはヨシキリザメやアオザメなどを使い、山芋を入れてフワフワな食感に仕上げられています。
あんなに白いはんぺんですが、本来の身の色によるもので漂白などはされていません。安心ですね。
良質な魚のたんぱく質を多く含むスリミを使った食品は、忙しく暮らす現代においては、調理の手間が軽減されるという利点もあります。
また、将来の食糧問題を考えたときに、見た目の悪さなどから未利用であった水産資源を活かす方法としても、スリミには大きな期待が寄せられています。
日本各地のいろんな種類の練り物を取り寄せてみると、きっと家にいながら地方の味を楽しむ豊かな時間が過ごせるかもしれません。
さまざまな地域の食文化を知って、地域経済の応援になるかもしれませんね。お刺身や煮魚もいいですが、もっと練り物も食卓に取り入れてみませんか。