小さくても風味抜群で、美しい桜色が目にも鮮やかなサクラエビ、日本では静岡県駿河湾の由比港・大井川港だけで水揚げされる希少なエビです。天候の良い日、富士川の河川敷で天日干しされるサクラエビはまさにピンク色の絨毯。富士山を背景にした圧巻の光景です。
その色や、春に獲れるといった由来から名づけられたサクラエビ。はたしてどのようなエビなのでしょうか?
(サクラエビ)
サクラエビは、エビ目(十脚目)・クルマエビ亜目・サクラエビ上科・サクラエビ科・サクラエビ属(Sergia)に属しています。
昼間は水深200~350mの海中に生息し、日没前から群れを増しながら水深20~60mまで上昇、明け方近くになると、今度は群れを散らしながら下降していきます。
産卵期は6月~10月頃。卵は約1日半で孵化したあと、浮遊しながら姿を変えて成長し、約1ヶ月後には稚エビになります。10~12ヶ月で親エビとなり産卵、その2~3ヶ月後に一生を終えます。
体には160個ほどの発光器があり、夜の海でキラキラと輝くことから「海の宝石」と呼ばれるようになったようです。
(サクラエビが光る様子 提供:中部大学 大場裕一教授)
(静岡県由比港にあるサクラエビのモニュメント)
サクラエビを対象とした漁がスタートしたのは1894(明治27)年に遡ります。その年の12月、由比でアジを獲っていた漁師が偶然網を深く潜らせたところ、大量のサクラエビが獲れました。
それ以前は漁法が確立されていなかったサクラエビ、この時から意図的に獲ることができるようになったのです。その後乱獲が続き、1917年には許可制となりました。
現在は、2艘の船が網を張って、夜間に浅場まで上がってきたサクラエビを獲る「2艘船曳網漁」で漁獲しています。
日本国内では相模湾や東京湾河口、長崎五島列島沖にも生息していますが、漁獲できるのは駿河湾だけです。
海外では韓国・済州島沖や台湾周辺の生息域が知られており、台湾東部や南部では漁獲も行われています。大きさは駿河湾産に比べるとやや小ぶりのようですが、「台湾産」として加工品が日本に輸入されています。
希少で漁獲地域も限られるサクラエビには、厳しい資源管理が行われています。
漁期は3月中旬から6月初旬の春漁と、10月下旬から12月下旬の秋漁の年2回で、それぞれ70日ほどしか獲ることはできません。6月中旬から9月下旬は繁殖期に当たるため、禁漁期になっています。
※2022年の春漁は、3月27日(日)晩から6月8日(水)晩までとなります。
秋漁が終わった冬季は禁漁期ではないのですが、資源保護のために漁が自粛されているのです。 また、サクラエビ漁では「プール制度」と呼ばれる漁業が行われています。これは、一隻ごとの漁獲量の多寡に関係なく、全隻の漁獲量を均等に分配する制度です。
例えば10隻出航して合計100kgの水揚げがあれば、1隻に10kgの水揚げが割り当てられます。5kgしか水揚げできなかった船でも、20kgの水揚げがあった船でも、個々の水揚げ量に関係なく、全体の水揚げが平等に配分されます。
(静岡県水産・海洋技術研究所調べを基に作成)
特に近年、サクラエビの不漁が続いています。
「水質を含めた海況の悪化ではないか」「獲りすぎなのではないか」などと言われていますが、原因はよくわかっていません。
2019年以降、産卵する親エビを保護するため、春漁は成熟卵を持つ雌「頭黒(アタマグロ)」と呼ばれる親エビが増えてきたら終漁です。秋漁は翌年産卵する0歳エビを保護するため、産卵を終えた1歳エビを主対象として漁獲するなど、資源の回復のため漁業者が自主的に策定したルールに基づく操業が行われています。
(左:サクラエビ科 サクラエビ 中:サクラエビ科 アキアミ 右:プランクトン オキアミ)
このように希少なサクラエビですが、「意外とよく食べている」と思いませんか?
お好み焼きや焼きそばなどの上にふりかける桜色のエビ、同じサクラエビ科のアキアミが用いられたり、エビの仲間ではなく、プランクトンであるオキアミが代用品として用いられていることがよくあります。 アミエビ、ホシエビ(干したエビの意味)、桜小エビなどと呼ばれる桜色のエビが、すべてサクラエビというわけではないのです。
希少なサクラエビ、資源回復の努力が一日も早く実を結んで欲しいですね。