海の水はなぜ塩辛い?

海水浴で海水が口に入り、あまりにも塩辛くてビックリした経験があるのではないでしょうか。それもそのはず、海の塩濃度は約3.1~3.8%。味噌汁の塩濃度は大体0.7%~0.9%ぐらいですから、そのままでは塩辛くてとても飲むことができません。

そもそも、どうして海の水は塩辛いのでしょうか?

今回のテーマは、海水や、海水から作られる塩についてご紹介します。

海の水が塩辛い理由は大昔の地球にあった

(マグマと水蒸気のイメージ)

なぜ海水が塩辛いかの前に、海の成り立ちからご説明します。
地球が誕生したのが約46億年前、海はその10億年後までの間にできたと言われています。

誕生したばかりの地球は、宇宙空間を漂っていたチリや砂の粒子が衝突し合い、そのエネルギーによって数千度の温度がありました。まだ地上に水(H2O)はなく、大気中に水蒸気として存在していました。 この大気中には、今の大気にはない塩化水素(HCl)も含まれていました。

その後、次第に地球が冷えてくると、塩化水素は大気中の水蒸気に溶け、塩酸(HCl)の雨となって地上に降り注ぎ、窪地にたまります。これが最初の海です。
この頃の海は強い酸性で、塩辛いというより酸っぱかったと推測されています。

塩酸にはさまざまな物質を溶かす性質があり、地上にあった岩石に含まれるナトリウム(Na)やマグネシウム(Mg)などを大量に溶かしました。 塩酸(HCl)の塩素(Cl)はナトリウムやマグネシウムと反応して塩(えん)になります。
いわゆる食塩は塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)はにがりの中に含まれる塩です。
このように酸とアルカリ性の塩基が反応することによって、塩と水ができます。この化学反応を「中和」と言います。中和反応でできる水以外の物質は、すべて塩となります。そのため、塩=食塩(NaCl)とは限らないのです。

(中和反応の化学式。ただし、中和には塩だけが出来て水ができない場合もあります)

水は蒸発したあと大気中の塩化水素を溶かして雨になり、岩を溶かして海に流れる循環を30億年ほど続けました。長い年月をかけ、強い酸性の雨や海水はどんどん中和されて、今の中性の海になったのです。約6億年くらい前にはほとんど中和され、今の塩辛い海が完成したと考えられています。
なお現在の海水には、ナトリウムやマグネシウムのほか、80種類以上の元素が溶け込んでいます。

岩塩は海の化石と表現されるゆえんは?

(岩塩)

海だけではなく、「塩湖(えんこ)」と呼ばれる塩辛い湖も存在します。有名なところでは死海やアラル海が塩湖にあたります。塩湖の成り立ちは大きく分けて2つあります。1つは、昔は海だったところが地殻変動で内陸に孤立したもの。もう1つは、出ていく川がないために塩分が濃くなったものです。 ちなみに塩湖から産出する塩を「湖塩(こえん)」と言います。

塩湖の水が干上がると、塩原(えんげん)になります。南米のボリビアにあり、雨季の鏡面写真で有名なウユニ塩湖は、地理学的にはウユニ塩原と呼ばれます。

このかつての塩湖や、塩原が長い年月を経て生成された蒸発岩の一種が、岩塩です。岩塩が「海の化石」と呼ばれることもありますが、長い月日をかけて形成されることが「海の化石」と表現されるゆえんなのです。

岩塩は多くの不純物を含んでいるのでそのままでは食用に適しません。そのため、一般に市販されている岩塩は、いったん岩塩層に水を流し込んで溶解したあと、取り出した塩水を再結晶させる工程を経て製造されています。

きれいなピンク色(薄い鉄さび色)で有名なヒマラヤ山脈産出の岩塩は、世界最高峰のエベレスト(チョモランマ)を有するヒマラヤ山脈がかつては海だったために産出されているのです。

海塩・藻塩とは

(鹿児島県 山川製塩工場跡)

自然界でとれる塩は、世界では岩塩が主流です。しかし日本では地性的に岩塩がほとんどとれないため、古来、海水から生成する方法が採られてきました。
塩を作る工程は、多くの海水から水分を飛ばしてかん水(濃い塩水)を作ったあと、そのかん水を煮詰めて脱水します。

日本におけるもっとも古い塩作りの方法は、干した海草を焼いて残った灰をそのまま使う方法です。6~7世紀になると、干した海草に海水をかけてかん水をとるようになります。それを土器に入れ煮詰め、塩を作るようになりました。こうして作られる塩を「藻塩」、方法を「藻塩焼き」と呼び、日本独特の技術です。

(藻塩)

岩塩・海塩・藻塩の主成分は精製塩と同じ塩化ナトリウム。精製された塩よりも粒が大きく、口の中で溶けるのに時間がかかるのが特徴です。わずかに含まれる塩化マグネシウムやほかのミネラルの雑味が、口当たりをまろやかにし、旨味を感じさせます。

熱中症の対策には水分と一緒にナトリウムが大事なように、塩は人間にとってなくてはならない成分です。太古の環境に思いを馳せながら、塩を味わってみてはいかがでしょうか。

この記事の監修:江口 充さん

(近畿大学・副学長・農学部長:江口 充さん)

京都大学農学部水産学科卒業。京都大学大学院農学研究科水産学専攻博士前期課程修了。近畿大学農学部助手、同講師、豪州ニューサウスウェールズ大学微生物学部研究員、近畿大学農学部助教授を経て、近畿大学農学部・同大学院農学研究科・教授、現在に至る。農学博士。近畿大学教育改革推進センター長(兼務)
専門分野:水族環境学、水質学、海洋微生物生態学。
近畿大学:教員紹介