ブルーカーボン生態系の一部である「藻場(もば)」についてご存じですか?
藻場は海中(かいちゅう)に広がっており、私たちが普段目にすることは少ない場所です。藻場の役割や種類、そして現在の状況について見てみましょう。後半では、アマモ場再生活動の様子もご紹介します。
(アマモ場再生イベントの様子)
ブルーカーボンとは、大気中の二酸化炭素(Co₂)が海洋生態系の光合成によって吸収され、その後海中や海底、深海に貯留(ちょりゅう)される炭素のことです。ブルーカーボンを貯留する主な海洋生態系は、海藻(かいそう)藻場、海草(うみくさ)藻場、湿地・干潟、マングローブ林の4種類があります。これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれています。
海の森、ブルーカーボン生態系とは?
ブルーカーボン生態系のうち、藻場についてご紹介します。
藻場とは、海藻や海草がまとまってたくさん生えている場所のことです。主に沿岸の水深20mより浅いところに形成され、海の健康と豊かさを保つために重要な役割を果たしています。
藻場は海中の様々な生き物に隠れ場所や産卵場所を提供したり、光合成を行うことで酸素を供給したりして、浅海域の生態系を支えています。
藻場の植物は貝類をはじめとする多くの生き物のエサになるだけでなく、植物に付着した藻や微生物も、小型甲殻類(小さなエビやカニなど)のエサになります。そして藻場に存在する生き物をエサとする魚類も集まってきます。藻場は酸素や豊富な資源を提供するため、多くの生き物にとって重要な生息地です。生物多様性と生産力が高く、日本では古くから漁場としても利用されてきました。
では藻場を形成している、「海藻」と「海草」は何が違うのでしょうか。
海藻は、海に生息する藻類の一種です。陸上の草や木とは異なり、葉、茎、根が明確に分かれていません。胞子で増える点がキノコと似ています。海藻は主に褐藻類(コンブ類など)、紅藻類(テングサ類など)、緑藻類(アオサ類など)に分類されます。
海草は海に生息する種子植物で、主に砂泥域に繁茂するアマモ類があります。
海草はもともと海藻の一種で、海に生息していました。一部が進化して陸上に進出し、葉や根のような構造や種子で繁殖する仕組みをもつ陸上植物になりました。しかし他の陸上植物との生存競争に耐えられなかったため、生息地を海に戻し、海草になったと考えられます。
海草が海藻と異なり、葉、茎、根が分かれ、海中で花を咲かせ、種子で繁殖するのは、進化の過程で獲得した特性によるものです。
海草は地下に茎と根を張ることで底泥(ていでい)を固定し、海底を安定させます。また、波の衝撃を和らげることで海岸の保全にも役立ちます。
(海藻と海草)
藻場は海の環境を守るうえで重要な役割を果たしていますが、全国各地では減少傾向にあります。
原因は、埋め立てによる浅海域の消失や、磯焼けなどが挙げられます。磯焼けとは、藻場が極端に減ってしまい、海の中が砂漠のようになってしまう現象のことです。原因は、はっきり分かっていませんが、魚やウニなどの食害や地球温暖化による海水温の上昇などが推測されています。
そこで藻場を守り、増やしていく活動が広がってきています。
2024年5月末、木更津市金田みたて海岸で、アマモ場再生イベントに参加してきました。潮干狩りのシーズンということもあり、海岸は多くの人で賑わっていました。
(金田みたて海岸から藻場がある沖合に向かって、進んでいる様子)
イベントではアマモの花枝(かし)採取を行いました。
アマモの花枝とは、花を咲かせてタネを実らせるために春になるとのびてくる枝のことです。採取した花枝は袋にまとめて10月まで海の中に吊るします。周りの余分な茎や葉など(タネ以外の部分)が腐り、タネが熟成してから、7月、10月の2回に分けてタネの選別を行います。11月~12月に選別したタネを蒔きます。
(アマモ場再生のための活動)
花枝の採取方法
アマモのタネは花枝の中に入っているため、花枝ごと採取します。
花枝は視覚だけでは見つけにくいので、手で触って膨らんでいる枝を探します。タネは、俵(たわら)のような形をしています。
(アマモの花枝とタネ)
(花枝を探して、採取している様子)
アマモに似たコアマモも多く見かけました。コアマモはアマモよりも小さく、成長しても10cmくらいの大きさにしかなりません。コアマモは潮が引いて海底が一時的に露出しても耐えられるので、アマモよりも浅い場所に生息することができます。
(コアマモ)
アマモの藻場に住む多様な生き物たち
他にも様々な生き物と出会えました。
アマモに紛れて分かりづらいですが、よく見ると細長い魚がいるのが分かります。
これはヨウジウオというタツノオトシゴの仲間で、アマモなどの海草が繁茂するところに住んでいます。
(ヨウジウオ)
コウイカがアマモに卵を産み付けていました。このようにアマモ場は魚やイカが卵を産む場所のひとつです。アマモ場で生まれた稚魚などはアマモに守られながら成長していくので、アマモ場は「海のゆりかご」とも呼ばれています。
(コウイカの卵)
ハゼの仲間のヒメハゼです。ハゼはスズキの仲間で体の断面が丸いのが特徴的な魚です。
(ヒメハゼ)
砂のかたまりのようなものがちらほら落ちていました。これはツメタガイの卵塊です。メスは粘液で砂を固めながら、中に卵を産みます。茶碗を伏せたような形であるため、砂茶碗と呼ばれています。1つの卵塊には約3万個以上の卵が入っています。
(ツメタガイの卵塊)
潮が引いたときに砂泥地を歩いていると、砂が渦巻きのようにぐるぐるしている場所がたくさんありました。これはタマシキゴカイのフンです。タマシキゴカイは砂を食べてその中の有機物を消化し、残った砂をフンとして積み上げます。海をきれいにしてくれる大切な存在ですね。
(タマシキゴカイのフン)
アマモ場再生イベントは、藻場が多くの生き物が暮らす住みかであり、海の環境を守るために重要な場所であることを実感できる貴重な機会です。豊かな海を守るために、私たちができることは身近にたくさんあります。
皆さまの周りでイベントを見つけた際には、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
<監修>
海辺つくり研究会 古川恵太 理事長
https://umibeken.jp