寿司ネタで人気の“えんがわ”とは?

回転寿司の定番ネタの1つ、えんがわ。コリコリした食感や、ほんのり甘味のある脂など、他の寿司ネタにない独特なおいしさが人気です。

今回は、その名前からして謎めいている「えんがわ」の秘密を探っていきましょう。

えんがわはどんな魚?

「えんがわ」は魚の名前ではありません。一般的にヒラメやカレイの背びれや尻びれの付け根にある、担鰭骨(たんきこつ)という部位に付いている筋肉をさします。

(ヒラメの担鰭骨 青線で囲んだ部位)

ヒラメやカレイは、ひらひらと波打つような独特な泳ぎ方や砂に潜る習性から、ヒレを特にたくさん動かす魚です。そのため、他の魚より背びれや尻びれの筋肉が発達し、あのコリコリとした独特の食感になるのです。

担鰭骨やそれに付いている筋肉自体は、ヒラメやカレイ以外の魚にも存在します。たとえば、アジやタイにも“えんがわ”はありますが、小さかったり食感が変わらなかったりして、ヒラメやカレイほどの違いは感じられないようです。




(泳ぐヒラメ)

実際にヒラメの写真を見てみましょう。赤線で囲んだ部位がえんがわです。

(上:ヒラメ 下:ヒラメの柵)

ヒラメは、眼のある側を「有眼側(ゆうがんがわ)」、その裏側の眼のない側を「無眼側(むがんがわ)」と呼びます。有眼側は黒っぽく、海面を向いており、無眼側は白っぽく、海底を向いています。

(有眼側:ヒラメを上からみたところ 無眼側:ヒラメを下からみたところ)

ヒラメを五枚おろしにするには、まずウロコと頭、内臓を取り除きます。つぎに尾びれの付け根に切り込みを入れた後、有眼側のほぼ中心にある背骨に沿って頭側から尾びれ側まで包丁を入れます。その切り口から中骨に沿うように背びれ側と尻びれ側に向かって包丁を入れ、それぞれ片身(柵)を切りはがします。無眼側も同様に背びれ側と尻びれ側に切り分けると、計4枚の柵(サク)ができます。 有眼側の方が、無眼側よりも身が厚めです。

(ヒラメの五枚おろし)

えんがわは1尾につき4枚とれますが、背びれ側よりも尻びれ側の方が大きめです。このように1尾のヒラメからとれる量が限られているため、昔から、「えんがわは馴染みのお客さんにしか出さない」と言っている寿司屋もあるようです。

「えんがわ」という名前の由来は、筋肉のスジの模様や魚の縁についている様子が、日本家屋の「縁側」に似ているからといわれています。

(左:日本家屋の縁側 右:アブラガレイのえんがわ)

えんがわに使われる魚とその違い

(「回転寿司店に行った際によく食べているネタ (複数回答形式)」アンケート)

えんがわの寿司といえば、かつては知る人ぞ知る希少部位でしたが、今では回転寿司でよく食べられているネタ8位に入るほど、広く親しまれるようになりました。しかし、なぜ回転寿司チェーンは、希少なはずのえんがわを多くの人に提供できるのでしょうか?

回転寿司に関する消費者実態調査 2024(マルハニチロ調べ)
https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/research/pdf/20240325_research_sushi2024.pdf

ヒラメは国内漁獲量が年間約6,000トンと少なく、高級品とされています。一方、カレイの国内漁獲量は年間約35,000トンとヒラメの約6倍です。ヒラメよりは安価で、比較的手に入れやすいのですが、国内漁獲量は減少しており、国内産のカレイは海外産に比べると希少で、価格が高くなっています。
そのため、国内産のカレイは鮮魚としてそのまま、あるいは切り身や刺身にしてスーパーや百貨店の鮮魚売り場で売られることが多いようです。
回転寿司チェーンやスーパーのパック寿司に使用されるえんがわは、主にカレイ(カラスガレイやアブラガレイ、オヒョウ)が使用されています。
これらは海外から輸入されたものが多くを占めており、主な産地はアメリカ・カナダ・アイスランド・デンマークです。

(農林水産省 海面漁業生産統計調査/確報 令和4年漁業・養殖業生産統計(2024年9月17日更新版)のデータを基に作成(2021年までのデータを使用)

ヒラメとカレイのえんがわの違い

ヒラメとカレイのえんがわは、味にどのような違いがあるのでしょうか?
泳ぐ魚を捕食するヒラメは俊敏に動くことから筋肉が発達し、えんがわの歯ごたえはしっかりしています。カレイに比べると脂が乗っていないので、ヒラメのえんがわは「上品な甘み」と表現されることもあります。
一方カレイは、砂地にすむゴカイなどを食べているため、運動量が少なく、筋肉が柔らかで、ヒラメよりも脂が乗っています。なかでもアブラガレイは、かつて北海道で魚油をとるために漁獲されていたことから、特に脂が多い魚として知られています。

寿司以外のえんがわの楽しみ方

(カレイえんがわ漬け丼)

カレイのえんがわは、スーパーや鮮魚店で見かけることがあるかもしれません。えんがわの弾力、歯ごたえを楽しむには刺身や寿司がポピュラーですが、マリネやカルパッチョ、またはキムチやワサビなどで和え物にしてもおいしくいただけます。
めんつゆベースのタレにえんがわを漬け込み、卵黄をのせた丼ぶりもおすすめです。

さっぱりと食べたい人は、熱湯でさっと湯引きしたものを氷で締め、ポン酢と刻み青ネギをかけていただくのもよいでしょう。

寿司屋でえんがわを食べるときは、魚の種類や部位について思いを馳せつつ、独特の食感をじっくり味わってみましょう。
また、えんがわを調理する機会があったら、寿司とは違う食べ方に挑戦してみてはいかがでしょうか。えんがわの魅力をより深く、おいしく楽しめます。