みなさんは、ハゼという魚をご存じですか? スズキ目ハゼ亜目に分類される魚の総称で、世界中に約2000種、日本にはそのうちの500~600種が生息しているといわれています。
名前にハゼはつきませんが、ムツゴロウ、ヨシノボリ、シロウオもハゼの仲間。
そんな多くの仲間がいるハゼの中から、今回は真のハゼ…「マハゼ」についてみていきましょう。
(水中のマハゼ)
ハゼ類の多くは、海の水と川の水が混ざる「汽水域」と呼ばれる場所を中心に生息しています。
ハゼは漢字で「沙魚」と書きますが、水の少ないところ(=浅瀬)にいる魚から漢字の由来がきているのかもしれません。さらにそれをまとめた「鯊」という漢字もあります。
マハゼの稚魚たちは春に孵化して川を遡り、浅いところに集まります。
その後、夏に若いハゼとなって河口や運河を下っていき、秋なると再び海に集まります。冬に汽水域の海底に巣穴を掘って卵を産みますが、ほとんどのマハゼは、メスは産卵後すぐに、オスは卵の孵化を見守った後に一生を終えてしまうのです。
ちなみに、生後1年以内に産卵して死亡する魚を総称して「年魚」といいますが、年魚には、マハゼのほかにはアユが有名です。
マハゼは雑食性がとても強く、小さな時には、動物プランクトンなど水中に漂っている小さな生き物を食べていますが、成長するにつれ、砂に潜っているゴカイや小型のエビ・カニなどや、小魚も食べるようになります。
動物性の餌だけではなく、ノリなど植物性の餌も食べています。
海苔の養殖をしている下に生息しているマハゼを食べると、海苔の香りがしたそうです。
(はぜ類漁獲量 出典:内水面漁業生産統計調査(農林水産省)を元に編集)
マハゼはかつて、日本全国で普通にみられました。食用としても親しまれ、江戸前の天ぷら種としても欠かせない魚でした。ところが最近では獲れる場所や数が減ってしまい、大衆魚とは呼べなくなっています。
1970年代までは、まだ東京湾で漁業者が生業とするほどたくさんのマハゼが漁獲されていました。その後、高度成長期における河川の水質悪化や生息域の縮小等によりマハゼもその数を減らしていました。しかし近年では、行政や住民など様々な主体が回復に向けての活動を各地で進めています。
(江戸和竿)
マハゼは釣りの初心者向けの魚の代表といってもよいくらい、よく釣れる魚です。
江戸時代にはすでに、多くの人がハゼ釣りを楽しんでいたようで、道具に凝る人も多くなり、釣り具の研鑽がすすんで、伝統工芸品の「江戸和竿」の基礎が育まれたといわれています。
(ハゼ釣りと思われる葛飾北斎の浮世絵)
昭和に入ってからも「だれにでも釣れる魚」としてハゼ釣りはブームとなり、今でも多くの人がハゼ釣りを楽しんでいます。
春に生まれたマハゼは、夏から秋にかけては10~20cm程度に大きく成長します。この時期は餌をたくさん食べるので、釣り人にとってもベストシーズン。以前は9月の彼岸ごろには、江戸前の釣り船が一斉に船を出していました。
(マハゼが釣れたところ)
餌に近寄ったとき最初に食いつくのは、体の大きな個体が先のようで、最初に20cmくらいのマハゼが釣れて「ここには大きいマハゼがいるに違いない」と喜んでも、その後に釣れるマハゼがどんどん小さくなっていく……という話もあります。
やがて秋が深まると、水温の低下とともに深みへ移動してしまうため、岸辺から釣ることは難しくなります。
そろそろ岸辺からその姿が見えなくなる季節になりますが、来年の春には元気な稚魚の姿がたくさんみることができるでしょう。
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