初夏の日差しが木漏れ日となって注ぐ渓流。涼やかな風の中、海の釣りとはまた一味違った趣向を求めて釣り人が集います。
アユ、アマゴ、イワナ、釣りをしない方でも一度は耳にしたことのあるこれらの魚は、どれも「川魚」でくくられます。
さて、このアユ、アマゴ、イワナには系統的に仲間外れが混ざっています。それはどの魚でしょうか?
答えから言いましょう。アマゴとイワナはサケ目、アユはキュウリウオ目なので、仲間外れは「アユ」となります。アユの仲間には、シシャモがいます。
サケの仲間は和名に「マス」とついていたり、英名の「サーモン」のほうが有名であったりと、とてもややこしいですよね。
サーモンとサケは違うのでしょうか?
さらにもっとややこしくしているのが、同じサケ(またはマス)であっても、海に行ったか・行かなかったかで、名前が変わることにあります。 下の表をご覧ください。
(水産研究・教育機構「SALMON情報」を基にマルハニチロ編集)
この通り、川魚として有名なアマゴが海に行ったものをサツキマス、ヤマメが海に行ったものをサクラマスと言います。海に行ったものを降海型、一度も海に行かないものを陸封型(川残留型)に分類します。陸封型にはダムなどの物理的要因で海に行けなかったものも含まれます。
陸封型のヤマメと、降海型のサクラマスの姿を比べてみましょう。
(左:サクラマス 右:ヤマメ)
とても同じ魚とは思えない変貌ぶりです。同種の魚が海に行く・行かないを決める因子は、成長具合・生存競争・遺伝子由来など諸説ありますが、正確なことはよくわかっていません。
淡水の川で生まれ育ったアマゴやヤマメが海に出るには、自分の体より塩分が濃い海水の中で生きていく必要があります。そのために体内から塩分を排出するしくみに体を変化させなければなりません。このように降海型の体に変身したサケ・マス類の個体を「スモルト(銀毛)」、スモルトになることを「スモルト化」と言います。
海に行くために必要なスモルト化ですが、放流した稚魚はスモルト化しにくいという研究結果があります。近年、河川内での減耗を避けられ、放流効果も高いと考えられている降海間近のスモルト化した魚の放流数が増えてきています。
(清流の女王・アユ)
一方のアユは、すべてが一度海で生活をします。秋ごろ河口近くで産卵・孵化し、海でしばらく成長するのです。アユは春に川をのぼってきます。このころのアユはまだ小さいのですが、川にのぼったあと、石についた藻を食べて大きく成長します。アユが藻を食べたあとの石は、笹の葉のような形の食み跡(はみあと)が見られることがあります。
秋になるとまた産卵のために下流へ向かいます。アユは産卵後、寿命を迎えます。
アユは普通の魚と違って、キュウリのような独特のよい香りがします。そのため別名「香魚」と呼ばれています。川の水がきれいだと、キュウリではなくスイカの香りがするようになります。夏、アユがたくさんすんでいるきれいな川では、河原からスイカの香りが漂うといいます。
長良川の夏の風物詩・鵜飼は、主にこのアユを捕る日本の伝統漁法です。
(やな(簗))
「やな(簗)」とは、川をせき止めて、その一部に流れ口を作り、竹製の簀の子の上に落ちたアユなどを捕る江戸時代から行われてきた伝統的な漁法です。産卵のために川をくだるアユの習性を利用します。
最近では「観光やな」として、川の一部をせき止め、放流したアユやアマゴなどを手づかみで捕り、併設のお店で串焼きにしてもらうレジャーが盛んです。自分で捕まえた魚をその場で食べるのは、普段の食卓にはない体験も伴って美味しさもひとしお。
ただし生食は、川魚が寄生虫の中間宿主となっていることもあり、食品衛生法でも「勧められない」とされています。
鵜飼や「やな」は組織的に行うものですが、個人で行える渓流釣りもまた人気です。
ヤマメ・アマゴは雑食性なので、釣り餌には釣具店で購入する餌の他、生息している川で採取した水生昆虫や「フライ・毛ばり・ルアー」といった、それらを模した仕掛けが使われます。
一方のアユは、石についた藻を食べていますので、通常はそれらの餌では釣ることができません。 アユの大きな特徴は、自分専用の石、つまり縄張りを持っていること。この縄張りに他のアユが近づこうとすると、追い払おうと体当たりをします。この習性を利用したのが友釣りという漁法です。掛け針のついたオトリのアユを泳がせ、追い出そうと体当たりしてくるアユに針をひっかけて釣るのです。
(左:おとりのアユ 右:友釣りで吊れたアユ)
川での釣りは、漁協による魚の放流や産卵場の整備や河川清掃などの漁場管理が行われているため、管理されている場所では、漁協が発行する遊漁承認証(遊漁券、釣り券)が必要です。 私たちは遊漁(趣味としての釣り)を楽しみながらも、しっかりとルールを守って水産資源の維持増大を意識することが大切ですね。