赤身魚と白身魚の違いは生態にあり!?

ご存じの通りマグロは赤身魚、タイは白身魚…。しかしよく考えてみると、赤身と呼ばれる魚でも白っぽい身の魚や、サケのように一見どちらかわからない魚もいますよね。

赤身魚と白身魚は一体どのように区別されていて、どのような違いがあるのでしょうか? 今回は赤身魚と白身魚について特集します。

赤身魚と白身魚の区別は?

赤身魚か白身魚かの区別は、その魚に含まれている色素タンパク質の量によって決まります。
色素タンパク質が100gあたり10㎎以上であれば赤身魚、10㎎未満であれば白身魚です。色素タンパク質は、酸素を運ぶヘモグロビンと酸素を貯蔵するミオグロビンがあり、ともに体内に酸素を供給する重要な役割を果たしています。

(お寿司 左上段からマグロ、タイ、左下段からブリ、サーモン)

では実際に写真で見ていきましょう。
上の写真は上段の左から三貫ずつ、マグロ、マダイ、その下の段には、ブリサーモン(サケやマス)が並んでいます。マグロが赤身、マダイが白身魚、というのは分かりやすいですよね。

ではブリはどうでしょうか? 見た目は赤よりも白に近いのですが、定義の上ではブリは赤身魚です。
サーモンの身はオレンジ色なのでどちらか迷いますよね。しかしこれはエサになるオキアミなどのプランクトンに含まれるアスタキサンチン(カロテノイドの一種)の色。サーモン自身は白身魚です。
ベニザケやシロザケなど、種類によって色の濃度は異なります。

(お寿司 左からイワシ、サバ、アジ)

上の写真は左からイワシサバアジです。どれも身は白っぽく見えますが、すべて赤身魚です。

では、青魚(あおざかな)とは、どんな魚でしょうか?
イワシ、サバ、アジは青魚と呼ばれることもあります。青魚は背の青い魚の一般的な呼び方ですが、明確な定義はありません。マグロやカツオも背の色でいえば青魚といえますが、赤身魚のイメージが強いためか、青魚と呼ばれることはあまりないようです。

赤身魚と白身魚の生態

赤身魚と白身魚の違いはその生態に理由があります。

 赤身魚白身魚
代表的な魚マグロ、カツオ、ブリ、イワシ、アジ、サバ、シイラ、サンマなどヒラメ、カレイ、タイ、メバル、タラ、フグ、サケ、タチウオ、スズキなど
生態回遊性が多い底棲性・定置性が多い
必要とされる能力持続力瞬発力
多い筋肉遅筋(ちきん)/赤筋速筋(そっきん)/白筋


マグロやカツオなど回遊性の魚は長い時間泳ぎ続けるため、この持続的な運動に力を発揮する筋肉が必要です。この持続的な運動に適した筋肉を遅筋といいます。

遅筋のエネルギー源は酸素・糖・脂質です。血液で運ばれた酸素や脂質をミトコンドリアが筋収縮エネルギーに変えます。この筋収縮運動を有酸素運動といいます。このとき、運動継続に必要な酸素を全身に届けるために、多くのヘモグロビンやミオグロビンが必要なのです。

対して、普段は砂底でじっとしているヒラメやカレイなど底棲性の魚の多くは、エサを見つけたり敵に襲われたりしたときにだけ瞬発的な力が必要です。

この瞬発的な運動に必要な筋肉を速筋といいます。速筋のエネルギー源は糖分で、酸素を必要としません。そのためこれを無酸素運動といいます。
遅筋と速筋は人間にも存在し、魚と同様に持久力が必要なマラソンランナーは遅筋が、瞬発力が求められる短距離ランナーは速筋が発達していることが知られています。

(左:赤身魚のイワシ 右:白身魚のヒラメ)

海の中を泳ぎ続ける赤身魚のイワシはマラソンランナー、いざというときには素早く動く白身魚のヒラメは短距離ランナーと考えると、イメージがしやすいかもしれません。

赤身魚と白身魚、食べたときの違いは?

筋肉の構成の違いは、魚を食べるときにも表れます。

赤身魚は持続的な運動に必要となる脂肪が多く、 そのため、味が濃厚で旨味が強いのが特徴です。その脂には、冷たい水の中でも固まらないように、サラサラとしたDHA、EPAが多く含まれています。また、熱を加えると身がしまって硬くなりやすいのも特徴です。

白身魚の身は脂肪分が少なくたんぱくな味わいで、熱を加えるとホロホロと柔らかくなり、ほぐれやすいのが特徴です。そのため、消化が良く胃腸の弱い方や離乳食にも向いています。

赤身魚の料理、例えばマグロカツはレアで仕上げることがありますが、白身魚フライはしっかりと中心まで加熱されていることが多いですね。
特徴に合わせた調理によって、それぞれの美味しさを楽しむことができます。

(左:マグロのレアカツ 右:白身魚フライ)

赤身魚と白身魚の成分による違いは?

赤身魚は、白身魚と比べて、筋肉中に遊離アミノ酸の一種であるヒスチジンを多く含んでいます。
運動により筋肉中の乳酸が蓄積し、体が酸性に傾くと、疲労につながります。ヒスチジンは酸性側に傾くことを防ぎ、疲労感を軽減する役目を果たします。そのため、長い時間泳ぎ続ける赤身魚は、白身魚よりもヒスチジンが多いのです。
そして、その成分の違いはヒスタミン中毒のリスクに差が出ます。海水に含まれるヒスタミン産生菌という細菌が魚の表面に付着しており、魚の死後、この細菌に含まれる酵素がヒスチジンに作用することで、ヒスタミンが生成されます。ヒスタミンの摂取量によっては、アレルギー様の症状を引き起こすことがあります。
赤味魚が白身魚よりヒスタミン中毒のリスクが高いのはこのためですが、冷蔵保存などの温度管理の徹底で予防することが重要です。

赤身魚と白身魚の違いを知っていれば、魚を選ぶときや献立を決める際にちょっと楽しくなるかもしれません。お酒を召し上がる方は、お気に入りのお酒にどちらが合うか考えるのもいいですね。

もし目の前の切り身が赤身か白身か迷ったときには身の色ではなく、その魚の生態を考えてみると答えが出るかもしれません。