オニカサゴ、いかつい顔した実は美味しい釣り魚

オニアジ、オニイトマキエイ、オニベラ、…日本産魚類全種目録によると、和名に“オニ”とつく魚類は40種類以上も存在します。
この“オニ“というのはもちろん「鬼」を指します。棘や角、巨大なヒレ、異様な顔つきや獰猛さなど、普通の魚とは一線を画す、異質で印象的な見た目や性質を持つものに付けられているようです。
本記事でご紹介するオニカサゴも、オニを冠する魚のうちのひとつです。
しかし面白いことに、世の中には“オニカサゴと呼ばれる魚“が、複数存在しているのです。

いわゆるオニカサゴは本物のオニカサゴではない?

下の2枚の写真はどちらも“オニカサゴと呼ばれる魚”です。
さて、 “本当の”オニカサゴはどちらでしょう?

(左 オニカサゴ/右 イズカサゴ(ともに標準和名))

本記事では、分かりやすいように実際の標準和名(日本語の正式名称)で説明していきます。
標準和名「オニカサゴ」は写真の左側の魚です。対して、右側の魚の標準和名は「イズカサゴ」ですが、特に関東地方の釣り人の間では、こちらも「オニカサゴ」と呼ばれています。釣りのターゲットとして一般的な「イズカサゴ」は、トゲトゲしさ、赤やオレンジ色の見た目から、オニカサゴとよく似ています。そのため、いつのまにか混同されて「オニカサゴ」と呼ばれるようになってしまったというわけです。

ちなみに、カサゴによく似ているオコゼにも、オニオコゼというスズキ目カサゴ亜目オニオコゼ科オニオコゼ属の魚が存在します。カサゴとオコゼは姿かたちがよく似ています。たくさんの棘や突起、ギョロリとした目、派手派手しい色をしており、その見た目はまさに鬼を連想させますね。

(オニオコゼ)

呼び方本当の名前(標準和名)分類
オニカサゴ、オキオコゼ(関西)イズカサゴスズキ目
カサゴ亜目
フサカサゴ科
フサカサゴ属
Scorpaena neglecta
オニカサゴオニカサゴスズキ目
カサゴ亜目
フサカサゴ科
オニカサゴ属
Scorpaenopsis cirrhosa
オニオコゼオニオコゼスズキ目
カサゴ亜目
オニオコゼ科
オニオコゼ属
Inimicus japonicus


(“オニ”がつくカサゴやオコゼの仲間(代表的なものを抜粋)) 

本物のオニカサゴとは?

(オニカサゴ)

ではオニカサゴは、どのような魚なのでしょうか。その生態や、“オニカサゴと呼ばれる、イズカサゴ”との違いを紹介していきます。
まず、本当のオニカサゴはフサカサゴ科オニカサゴ属の魚で、本州の暖かい海域の浅瀬に生息する魚です。全長20~30センチほどで、オニの名を冠している割にはそれほど大きくはありません。
じっと海底に潜んでいることが多く、殻類や小魚などを待ち伏せして捕食します。背びれ、尻びれなどには毒のある棘があり、うっかり触れると痛みを伴って大きく腫れるため、扱う際には注意が必要です。

(イズカサゴ)

対してイズカサゴは、本州の暖かい海に生息していますが、より深い100~200mの砂泥や砂礫帯に生息しています。体長は50センチを超えることもあり、オニカサゴと比べると大きく成長する種です。このように、オニカサゴとイズカサゴは外見が似ていますが、詳しく調べると生息地やサイズもなども違い、明らかに異なる魚なのです。分類の違いについては上の表をご覧ください。

オニカサゴは美味しい魚?

オニカサゴはとても美味しい魚です。透明感のある白身は、刺身はもちろんのこと、焼いてよし、煮てよし、蒸してよし、から揚げでも美味しくいただけます。決して大きな魚ではなく棘だらけで、可食部はあまり多くはないのですが、大変よい出汁がでるため、汁ものや煮つけがおすすめです。鬼のような見た目に対して、味は極上というギャップがオニカサゴをさらに魅力的にみせているのは言うまでもありません。一般のスーパーや鮮魚店ではほとんど見かけることがない、知る人ぞ知る美味しい魚です。
イズカサゴも同様に美味しい魚ですので、様々な料理で楽しまれています。釣り人からとても人気があるのも、その美味しさゆえです。

カサゴの仲間は骨やヒレがしっかりしているため、食べるのが「ちょっと面倒」と感じるかもしれませんが、せっかくの貴重な魚なので、じっくりと骨やヒレを取り分けて食べてみてください。頭の後ろや頬など、意外なところにも美味しい身がついていますよ。

(カサゴの煮物)

オニカサゴやイズカサゴを未来に残すために

オニカサゴやイズカサゴを含むカサゴの仲間はゆっくりと成長するのが特徴で、20センチの大きさになるまでには4~5年もかかります。商業的に大量に漁獲される魚ではありませんが、だからといって釣り人がこぞって獲ってしまうと、その地域での個体数や生態系に大きく影響してしまう恐れがあります。そのため、一部の地域では根魚(カサゴをはじめ、海底の岩や海藻などの障害物周辺を縄張りとする魚)を乱獲から守るためのルールを制定しています。たとえば宮崎県ではすべての海域での全長18センチ以下のカサゴの採捕が規制しています。

もし、お腹の大きなカサゴを釣り上げたら、これからたくさんの命を生み出そうとしている個体かもしれません。個体数を減らさず、未来に命をつなぐために、そっと海に返してあげましょう。一人ひとりの意識が未来の海を守ります。小さな選択が、大きな未来につながるのです。