カラスミ、日本三大珍味“海のチーズ”

皆さん、カラスミはお好きですか?
越前のウニ、尾張のコノワタと並んで日本三大珍味に名を連ねるカラスミ。皆さんはお好きでしょうか?黄金色に輝く見た目に、濃厚な旨味、ねっとりとした芳醇な味わいから「海のチーズ」とも呼ばれています。

このカラスミ、長崎だけでなく、台湾や遠くはスペインのお土産としても人気です。今回は、ボラの卵であるカラスミについてお伝えします。

カラスミの親、ボラは出世魚

(ボラ)

ボラ目ボラ科に分類されるボラは、円筒形の体に平らな背中をもつ魚。日本ではボラは成長とともに名前を変える出世魚でもあります。地域によって名称はやや異なりますが、一般的には体長2~3cmをハク、3~18cmはオボコ、イナッコ、18~30cmはイナ、30cm以上がボラ、50cm以上の老魚になるとトドと呼ばれます。トドとは、これ以上成長しない「とどのつまり」の慣用句に由来していると言われています。

ボラは幼魚期には海水と淡水が混ざった河口域に生息し、成長期・産卵期と進むにつれ、内湾、南の外洋へと移動してゆきます。泥臭いとよく言われるのは、餌と一緒に飲み込んだ泥が原因。生息域の水質によっては、身に匂いが移り、臭みが残る場合もあります。

ボラが大群で河川に発生し、ニュースやワイドショーを賑わせた「ボラちゃんフィーバー」を覚えていますでしょうか。これはボラのエサとなるプランクトンが、生活排水で大量発生したことによる現象と考えられています。フィーバーにこそなっていませんが、今でも時期になれば、あちこちの川でボラの大きな群れを見ることができます。群れをなすボラが水面上に大きくジャンプする姿は豪快そのもの。この特徴的な跳躍は「ボラの三段跳び」と呼ばれています。

日本近海のボラの産卵期は10月~1月頃。この時期がボラの旬の季節です。南の外洋へと移り住んだ4歳前後のボラは、臭みがとれ脂も乗り、肉は締まってきます。

ボラの卵がカラスミへの加工に向いている理由

(カラスミ)

ボラを使った加工食品で有名なのがカラスミです。日本三大珍味の一つに数えられます。 カラスミは、ボラの卵巣を塩漬けして干したもの。他の魚の卵と比べるとボラの卵は脂質が多いため、チーズのようなコクのあるねっとりとした味わいが出ます。

日本ではカラスミは古くから食べられており、「カラスミ」の名前が付いたのは16世紀末のこと。長崎の名産品であるカラスミを豊臣秀吉に献上した際、名前を尋ねた秀吉に対し、長崎代官が唐(現在の中華人民共和国)の墨に似ていることから、咄嗟に「唐墨」と答えたのが始まりだと伝わっています。

ボラはカラスミ以外にも、「へそ」や「そろばん玉」と呼ばれる、胃の幽閉部(胃壁)を調理した珍味があります。厚い筋肉でできていて、塩焼きなどで珍重されています。

カラスミの美味しい食べ方

日本では、ボラの卵巣のカラスミが有名ですが、世界的にみるとボラの卵はむしろ例外です。イタリアではカラスミはボッタルガと称され、マグロの魚卵でも作ります。スペインではタラやマルーカのカラスミが一般的です。

カラスミは薄くスライスしおつまみ等でそのままでも食べられますが、塩辛く味付けされているため、料理に使っても一層美味しくなります。カラスミの塩辛さを大根の水気と甘さで緩和した「カラスミ大根」なんかは乙なもの。イタリアではパスタの添え物として用いられ、パスタをマイルドかつ妙味にサポートしています。また台湾南部の高雄では、カラスミの入ったチャーハンが大人気なんだとか。

(カラスミ大根)

ボラを美味しく食べるためには?

成長とともに名前を変える魚を出世魚と呼ぶのは、江戸時代からの風習です。成長につれて名前を変える魚は数あれど、縁起が良いとされる出世魚はほんの一部だけ。ボラはブリやスズキなどと並んで崇められる立派な出世魚です。

最近では泥臭さから嫌う方もいるボラですが、その原因は水質汚染。ボラは水質汚染に強く、汚れた水域でも生息できます。そういう場所で生育したボラの身には臭みがあり、印象が悪くなりました。

(都内の川に発生するボラの大群)

ところが漁師の人たちは、今でもボラが漁獲されると喜びます。昔は尾頭付きの膳で出されることが多く、お食初めの膳に用いられた縁起のいい魚。水質の綺麗な場所に生息しているボラは、臭みがなく「寒ブリ・寒ボラ・寒スズキ」と並び称されるなど、刺身は絶品なのです。

ボラを美味しくいただけるかどうかは、私たちの環境への取り組み次第です。きれいな環境に住むボラがたくさん獲れるようになれば、高級珍味であるカラスミの値段も下がって、私たちに身近な食材になるかもしれませんね。