海のミルク、カキ。その栄養価と“Rの月”の逸話

「Rのつかない月にカキは食べるな」という言葉をご存知ですか。
この言葉、元々は「Oysters are only in season in the ‘r’ months 」という英語圏のことわざ。Rの付かない英語の月は5月から8月にかけての4ヶ月間ですが、なぜこのように言われるようになったのでしょうか。

ホタテと並んで、貝類では圧倒的な水揚げ量を誇るカキ。今回は、栄養たっぷりのカキをめぐる逸話に迫ります。

海のミルクと呼ばれるほど栄養が豊富なカキ

(殻付きのカキ)

カキは軟体動物門二枚貝綱ウグイスガイ目イタボガキ科に属する二枚貝の総称で、名前の由来は「海の岩から『かきおこす』ことから」とも「殻を掻き砕いてから採るから」とも言われています。世界にカキは約200種類。このうち日本近海には約30種類が生息し、スーパーマーケットなどで多く売られているカキのほとんどは養殖されたマガキです。

カキは数多くの栄養成分を豊富に含み、それがバランスよく配合されている食材です。含まれる栄養素はタンパク質、ビタミンB2やビタミンB12といったビタミンB群、鉄や亜鉛などのミネラル、タウリンやグルタミン酸などのアミノ酸、EPAやDHA、グリコーゲンと、挙げ出したらキリがありません。このように栄養豊富な食材であることから、カキは海のミルクと呼ばれています。

(カキの栄養 出典:日本食品標準成分表(八訂))

人類とカキとの関わりは古く、「16万4000年前にはすでにカキが食べられていた」という痕跡が南アフリカのモーセル・ベイで発見されています。驚くことに、モーセル・ベイは現在でもカキの養殖地として有名。 日本でも縄文時代の貝塚からも殻が発見され、『古事記』にも允恭(いんぎょう)天皇の条に「夏草の相偃(あいね)の浜の蛎貝(かきがい)に足踏ますな明して通れ」とその存在が記されています。養殖の開始も江戸時代と早く、生食が盛んになったのは明治時代以降です。

ところで冒頭の「Rのつかない月にカキは食べるな」といわれるのはなぜか?」という疑問。このことわざは、5月から8月にかけてはちょうどカキの産卵期であり、その時期のカキは「水ガキ」と呼ばれ水分が多く身が痩せていることに由来します。 裏を返せば、「Rの付く」9月から4月までが牡蠣の季節。その中でも2月から3月の寒い時期はカキの餌となるプランクトンが大量に発生するため、美味しさの源であるグリコーゲンがたっぷりカキに蓄積されます。

ただしこれは北半球の「マガキ」の話で、日本の岩カキの旬は夏です。岩カキは数か月をかけてゆっくり産卵するため、夏場でも味が落ちることないと言われています。

カキの生食用と加熱用の違いは?

(加熱用のカキ)

ところで、スーパーマーケットなどは生食用と加工用の2種類のカキが売られています。一体この違いはどこにあるのでしょうか?

鮮度の違いかと思いきや、そうではありません。実は「どこで獲れたか」が鍵。つまり、カキに含まれる菌の数が重要です。菌の数は収穫された海の水質によって異なります。沿岸部で育ったカキはノロウィルスなどによる食中毒の危険性があるために生食に向かず、加熱用のみとなります。

一方、生食用のカキの大半は養殖された安全なもの。淡水と海水の混じりあった汽水域で飼育されたカキを、そののち、一定期間無菌状態の海水で絶食状態にします。生食用のカキの身が痩せているのはこのためなんです。

最近では食中毒の原因の一つであるノロウイルスの存在しない環境(完全陸上養殖や海洋深層水を使うこと)で、絶食させずに牡蠣を養殖する取り組みも進められています。

カキのレシピ

(カキのバター醤油焼き)

生食用のカキの調理は、鮮度が良ければとくに何もしなくて大丈夫。海水の塩分だけでも十分美味しく召し上がれます。もちろんレモンを絞るのも常套手段。香りのよい柚子を添えるといいアクセントに。ポン酢や黒胡椒とも相性は抜群です。

おススメの食べ方は牡蠣の蒸し焼き。蒸すだけだと、焼いたときに漂うあの香ばしさが出ませんし、ただ焼くだけでは水分が逃げてしまい、身が縮んでしまいます。なので蒸し焼きはいかがでしょう。レシピも簡単です。牡蠣の入った皿にラップをかけ、電子レンジで蒸し焼きにするだけで出来上がりです。

ふっくらサクサクのカキフライも定番中の定番。ジューシーなバターソテーも簡単に調理できおすすめです。一方、とろーりとろけるチーズ焼きは絶妙の味わい。ワインが進みます。ちなみにフランスでは「牡蠣にはシャブリ(Chablis)」と言われますが、これは殺菌作用のある白ワインが生ガキに「あたる」のを防ぐためと言われています。このほかにも、お好み焼きやコロッケ、パスタの具材としても使え、実に万能な食材です。

(カキフライ)

カキの殻の行方

カキの重量のうち、約8割が殻に由来します。たとえば10万トンのカキがあれば、うち8万トンは殻なんです。

実はカキの殻も立派に有効活用されています。牡蛎殻は牡蛎(ぼれい)と呼ばれ、不眠や不安などに対しての鎮静剤として、古くから漢方薬で用いられてきました。 殻を有用たらしめているのが、全体の75%を占める炭酸カルシウム。養鶏(採卵)の飼料としても優秀で、健康な卵の殻を形成するために必要な栄養素となります。また粉砕した牡蛎殻は肥料にもなり、柑橘類の肥料に適しています。さらには「胡粉(ごふん)」と呼ばれる白色顔料にも大変身します。

(ボレー粉)

牡蠣は美味しくて栄養豊富なだけでなく、日本の文化や歴史にも深く関わっている食べ物です。ぜひ、この冬は牡蠣を楽しんでみてください。