日本は世界中から水産物を輸入している水産大国。
輸入金額では米国に次ぎ、中国と並ぶ世界第2位で、世界シェアはおよそ9%(SOFIA2020)にもなります。
(国別の水産物輸入量割合 SOFIA2020)
ノルウェーサバ、カラフトシシャモ、西アフリカのタコ、北米の数の子、ベニザケ、ズワイガニなど、日本人が世界中に輸入先を求め、生産指導を行い輸入してきた水産物は数知れません。
最近では、中国やアメリカなどの魚介類に対するバイイングパワーの影響が大きくなっているといわれます。これは日本が買い付けていた商材を、他の国々の消費が拡大するとともに、買い付け量が増えたことによります。
(欧州の市場で販売されるヒメジ)
世界中で数多の水産物を開拓してきたお魚大国、日本。もともとは国内での水揚げ量が減ったために、代替の水産物を探してきたことが、水産物輸入の原点です。
その一方、日本ではあまり認知が低いのに、ヨーロッパでは人気の高い魚がいます。
それはヒメジ。北海道の南部以南から九州・沖縄にかけて広く分布する魚で、おもに浅い砂底に生息しています。成魚でも20cmほどの小型の魚で、2本の長いひげを持ち、ひげを使って砂礫のなかのエサを探します。海釣りをする方なら、一度は見たことがあるかもしれません。
(オジサン)
ヒメジの仲間には「オジサン」という和名を持つ種がいます。名前の由来は、長いひげのためと考えられています。ちなみにヒメジの英名はgoatfish。goatはヤギの意味なので、やはりひげから名前が付けられているようです。
なおこのヒメジの仲間は、水産庁の資源調査の対象になっていないため、資源量や水揚げ量の情報はほとんどありません。
(欧州の市場で販売されるヒメジ)
写真右前は欧州で販売されていた丸のままのヒメジ(14.90ユーロ/kg)。写真左はヨーロッパスズキ(8.90ユーロ/kg)、中央奥はアカウオ(11.90ユーロ/kg)です。スズキやアカウオよりも高価であることがわかります。
(欧州の市場で販売されるヒメジ)
上の写真右は、フィレになった状態のヒメジです(キロ49.5ユーロ)。左は紋甲イカでキロ29.95ユーロ、中央のイワシはキロ16.95ユーロ。ここでもヒメジの価値が高いことがわかります。
(ヒメジ料理)
日本ではあまり見かけないヒメジ料理ですが、フランスやベルギーなどでは、写真のようによく見かける魚料理です。ヒメジ料理の特徴は、なんといっても鮮やかな赤色の皮につきます。
山口県萩市では古くからヒメジを「金太郎」と呼んでいます。干物や刺身などで食べる習慣があり、また釣り人にも楽しまれていますが、全国的に見ると、一般的には馴染みのない魚といえるでしょう。
(萩の金太郎)
ヒメジは小骨の多い小さめの魚ではありますが、きれいな白身で、味はとても美味。日本近海では秋~冬頃が旬といわれています。萩市などの料理店や海釣りなどで食べる機会はありますが、もし西洋料理のヒメジを食べてみたいという方は、日本でもフレンチのお店であれば食べることができるかもしれません。また、コロナが落ち着いた後、ヨーロッパへ行く機会がある方は、気にしておくとよいかもしれません。
食文化がボーダレスになりつつある現代で、美味しい魚なのに、国や地域によって価値が違ったり食べたり食べなかったり。食文化ってとっても興味深いですね。