海をはぐくむ海のゆりかご、アマモとは?

「アマモ」という名前を、聞いたことはありますか?
アマモは水深が浅く、光が十分に届く海底に生息する海草で、日本各地で見られます。例えば太平洋側の内湾域では、水深1~3m程の砂地の海底に根を張り、成長しています。

アマモは小魚や甲殻類などの棲みかになるだけでなく、海をきれいにし、また光合成により二酸化炭素を吸収して酸素を作るなど、海の生き物だけでなく私たちにとっても大切な植物です。
そんな生き物にとって欠かせないアマモですが、高度成長期の水質悪化や沿岸域の開発などによって、アマモの生息地であるアマモ場が大幅に減少してしまいました。

(アマモ場分布推移 岡山県備前市日生町 引用元:NPO里海づくり研究会議)

そこで現在、海の環境を取り戻すために、全国でアマモ場再生活動が繰り広げられています。この活動によって少しずつ改善の傾向がみられる地域も出てきたようです。上の図は岡山県備前市日生町のアマモ場分布推移で、緑色の部分がアマモ場を示しております。
今回はアマモと6月に実施されたアマモ場再生活動について、ご紹介いたします。

アマモとは

アマモは海草の一種。花を咲かせ種子によって繁殖するイネ科の種子植物で、根・茎・葉の区別があり、胞子で増えるノリなどの海藻とは異なります。

(アマモ)

アマモは茎の部分をかじるとほんのり甘さを感じることから、甘藻(アマモ)という名前がついたそうです。また、「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ(竜宮の乙姫の元結の切りはずし)」という、植物で最も長い和名もついています。

アマモは貴重な一次生産者

(アマモ)

アマモの葉は海獣類のジュゴンやアイゴやブダイなどの草食魚のえさにもなりますが、それだけではありません。
アマモは光合成をおこないます。海水や砂泥から吸収した二酸化酸素や窒素、リンなどの栄養を利用し、デンプンなどの有機物を作り出します。
この過程を一次生産とよび、生態系循環の重要な一歩となります。
一次生産である光合成で生産された酸素を放出し、酸素を必要とする生き物に適した環境を作り出します。

アマモの表面には珪藻や藍藻などの付着藻類が増殖し、それを食べる微生物や小型の巻貝、ワレカラをはじめとした甲殻類などが棲みつきます。さらにそれを食べる小型動物が棲み、それを狙う魚や鳥が集まります。アマモの枯葉は、ヨコエビなどの小型甲殻類に食べられ、生物の屍骸や排泄物と共にバクテリアによって分解され、一次生産者であるアマモの栄養分になります。
アマモが豊かに生息することで、食物連鎖が好循環してゆきます。

(藻場の生き物 引用元:環境省)

なぜ海のゆりかごと呼ばれているの?

アマモは波の穏やかな内海や内湾の砂泥域で繁茂します。
アマモが密生するアマモ場では、海水の流れが穏やかになります。稚魚や小魚にとって餌となる小動物が葉の上や海底に集まり、また、アマモの葉で身を隠すことが出来、天敵に見つかりにくくなります。
つまり、アマモ場は、稚魚や小魚にとって餌が豊富な、恰好の隠れ家なのです。大型の魚も侵入しづらいため、アマモ場に産卵する魚介類も多く、卵から生まれてからある程度の大きさに成長するまでの生育場であることから、「海のゆりかご」と呼ばれています。

マルハニチロのアマモ場再生活動イベントに参加しました。

(マルハニチロのアマモ場再生活動イベントの様子)

2022年6月4日、千葉県木更津市の盤州干潟(ばんずひがた)でアマモの種を採取しました。
干潟へは海岸から船で10分ほど、イベント開催の12~14時は干潮にあたり、海は膝くらいの深さで不思議な感じがしました。干潮と満潮では潮位が1mほど変わるそうです。

(盤州干潟)

アマモ場再生のための作業工程は、地域により時期の違いはありますが、
① アマモの花枝という種ができる部分を採取・熟成(5~6月)
② 熟成した種の選別(9月)
③ 苗づくり(11月)
④ 育苗した苗を移植(5月)
の大きく4つとなります。今回は①の花枝の採取を体験しました。

下の薄黄緑色の楕円形の粒がアマモの種で、これがついた枝が花枝です。花枝ごと採取します。

(アマモの花枝)

ニラのような葉は取らないように、丁寧に花枝を採取します。

(マルハニチロのアマモ場再生活動イベントの様子)

海中に手を入れている間は気にならなかったのですが、海から手を上げてみると、こそばゆい感触がありました。見てみると、何の生き物でしょうか?小型の甲殻類のワレカラでしょうか?アマモを触ったときに一緒に採取してしまったようです。

(アマモに付着していた生き物 左:ワレカラ 右上下:ヨコエビ)

魚の卵と思われるものも見つけました。現地の漁師さんの見立てでは、ダツという魚の卵だそうです。

(ダツの卵?!)

アマモ場にはたくさんの生き物が生息している、というのが体験できました。

さて、こちらの動画はアマモ場の中です。どんな生き物がいるか、覗いてみてください。




今回の活動時間だけで、他にもこんな生き物が見つかりました。観察した生き物は全て海へ返しました。

(アマモ場にいた生物 サメの幼魚やヨウジウオ、カレイ目のウシノシタなど)

(タツノオトシゴの仲間のサンゴタツも!)

アカエイもいました。アカエイは尾に毒針があり、危険です。

(アカエイ)

藻場には危険な生き物もいるので、肌を露出しない服装にすることが大切です。また天気が良い日は帽子も欠かさずに。

今回採取したアマモの花枝は約2,000本!花枝1本に約20個の種がつくと言われていますので約4万粒の種を採取したことになります。

枝葉が腐敗し種と分別できるようになるまで海中で熟成させます。次のアマモ場再生イベントは夏に種子の選別を企画するそうです。また参加したいと思います。

(豊かな海を未来に)

アマモが生い茂るアマモ場は、多くの生き物の棲みかとしてだけではなく、海水の浄化と酸素の供給に大きな役割を果たしています。
さらに枯れたアマモが堆積する有機物として分解され、再び栄養塩としての循環がはじまる場でもあります。

最近ではブルーカーボンとしても、大きく注目されています。
光合成によりCO2を吸収するだけでなく、アマモ場の海底の堆積物に取り込まれた炭素が数千年にわたって貯留されることから、地球温暖化対策のための、炭素の隔離・固定の場としての期待も大きくなっています。

豊かな海を未来につなげていきたいですね。