皆さん、海の森とも呼ばれている「ブルーカーボン生態系」をご存じですか。
海の中に森があるの…?と驚いた方もいるかもしれません。
今回はそんな近年注目を集めている「ブルーカーボン生態系」についてご紹介いたします。
海に生息するアマモや海藻、植物プランクトンなど、海の植物や生物の作用で海中に取り込まれる炭素は「ブルーカーボン」の1つです。
二酸化炭素は水に溶けやすい性質があり、海水中にたっぷり含まれています。海の植物や植物性プランクトンは、光合成をして光と栄養素から有機物と酸素を作り出す際に、原料としてその二酸化炭素を吸収します。また海の植物は、小魚やプランクトンなどの生き物の食べ物になり、生態系内で循環する炭素になる他、枯れた後は海底へ堆積したりすることによって、炭素を海の中に貯めることができます。
この海の植物などが取り込んだ炭素を貯留(ちょりゅう)することも含め、生態系を「ブルーカーボン生態系」といいます。
①光合成では酸素を供給し、②小魚などのすみかになり、③海底に炭素を貯留するなどの機能を持つ海の植物は、まさに海の中にある森、「海の森」ですね!
これらの仕組みが地球温暖化対策になることから、ブルーカーボンは、近年注目を集めているのです。
(ブルーカーボン生態系)
日本の「ブルーカーボン生態系」の種類には、①海草の藻場(アマモ場など)、②海藻の藻場(コンブ・ワカメ等海で生活する藻類など)、③湿地・干潟、④マングローブ林があります。
①海草の藻場(アマモ場など)
(アマモ)
②海藻の藻場(コンブ・ワカメなど海で生活する藻類など)
(ワカメ)
③湿地・干潟
(谷津干潟)
④マングローブ林
(奄美大島のマングローブ)
なぜブルーカーボン生態系が地球温暖化対策につながるのか、詳しく見ていきましょう。
地球温暖化は、温室効果ガスが大気にたまり、地球が取り入れた太陽エネルギーが宇宙に放出されなくなることから起こっています。温室効果ガスには、既に排出規制がされたフロンなどの他に、メタンや二酸化炭素があります。
植物には、前述の通り、二酸化炭素(CO₂)を吸収したのち、炭素(C)を植物体に吸収・貯留し、たんぱく質などの有機物を合成するとともに、酸素(O₂)を空気中に放出する仕組みがあります。この一連の流れを光合成といいます。
一部の炭素が植物体に貯留されるので、結果として地球温暖化防止につながるのです。
炭素貯留とは
では、植物体に「貯留」された炭素は、最終的にどうなるのでしょうか。
植物が呼吸をすることで排出される炭素は、二酸化炭素として放出されるため、貯留されません。
貯留に回るのは、植物体(食物繊維:セルロースなど)になった炭素です。
(生きているアマモの炭素の動き)
植物の一部が海の生き物の食べ物になり、残りは枯れた後、植物体が海底へ沈むため、一定期間海底に炭素を貯めることが出来ます。その一部は分解されにくい形態をしているので、100年以上分解されずに貯留され、海底に沈んだ植物体は、いずれ微生物によって分解されます。その過程で二酸化炭素を放出するため、植物体に貯留された炭素は空気中に戻ります。
(枯れた後のアマモの炭素の動き)
ブルーカーボンは、海底の貯留をはじめとした炭素が放出されるまでの期間(炭素貯留期間)が長いことが、注目される理由の1つなのです!
ブルーカーボンとグリーンカーボン
ブルーカーボンに対して、陸地にある森林や山林などの植物が吸収・貯留した炭素のことをグリーンカーボンといいます。
陸はグリーン、海はブルーと、生態系それぞれの存在場所によって呼び方が分かれていますが、ともに二酸化炭素を光合成で吸収・貯留することから、どちらも地球温暖化対策で重要な役割を果たしています。
(ブルーカーボンとグリーンカーボン)
炭素貯留期間
ここでは、ブルーカーボンがどのくらいの期間、炭素を貯留できるのか、グリーンカーボンと比べて説明します。
グリーンカーボンは、炭素をしばらくの間、土壌や植物体で貯留することが出来ますが、分解が始まると、陸上では数十年のうちに大気に戻ってしまう場合がほとんどです。
それに対して、ブルーカーボンは数百年から数千年単位で分解されると考えられています。
ブルーカーボンは水中にあるため、海底に堆積して埋没したり、深海に流れ着いたりすることで、酸化・分解を受けにくい場に隔離されたり、炭素が分解されにくくなることから、グリーンカーボンよりも炭素を長く貯留できる可能性があるのです。
瀬戸内海の海底の調査で、三千年前の層からもアマモ由来の炭素が見つかったことから、枯れた後もアマモは、数千年単位で炭素を植物体に貯留できることがわかっています。
2023年11月、横浜市金沢区柴漁港で、ブルーカーボン生態系の保全活動のため、アマモ場再生活動イベントに参加してきました。
11月とは思えない温かい過ごしやすい気温の中での活動でした。
アマモ場再生のための作業工程は、地域により時期の違いはありますが、
① アマモの花枝というタネができる部分を採取・成熟(5~6月)
② 成熟したタネの選別(9月)
③ 苗づくり・タネまき(11月)
④ 育苗した苗を移植(4~5月)
の大きく4つです。
今回は③苗づくり・タネまきを体験しました。
以前参加した①で採取・成熟したタネを、今回は使用します。
はじめにアマモのタネの中に貝や小さなカニなどが混ざっているので、ピンセットなどで取り除きます。
(ピンセットで貝や小さなカニを取り除いています)
糊の中にアマモのタネを入れて柄杓(ひしゃく)で、一緒に海水を入れないよう注意しながら混ぜます。糊の粘着力が弱ってしまわないようにするためです。
こちらの糊の成分は、食品添加物にも使われるCMC(カルボキシメチルセルロース)です。
(糊とアマモのタネを混ぜています)
次にヤシマットと呼ばれている茶色のシートをひき、その上に不織布をのせます。ヤシマットはヤシの繊維などの自然素材を編み込んで作られ、不織布は綿花など植物由来のアセテートで作られているため、海中でも分解されます。
使用している糊、ヤシマット、不織布全て環境に配慮されたものであることがよくわかります。
先ほど混ぜ合わせた糊とタネを不織布の上に伸ばし、さらにヤシマットで挟みます。
(先ほど混ぜた糊とアマモのタネを不織布の上に伸ばしています)
その上に金網をのせてホッチキスで止めます。
最後にくるくると巻き、完成したロールを紐で縛ります。
(完成したロールです)
陸でやる仕事は以上で終わりです。
あとはダイバーの方々の仕事です。完成したロールをダイバーが海まで運び、海中に広げます。
(完成したロールをダイバーが海まで運んでいます)
(海の中で広げられたシートです)
やがて、このヤシマットからアマモが芽を出してくれます。
(現在シートの下にある植物(緑に見えてるの)は、アマモではなくアオサです。)
蒔いたタネが10粒あるとしたら、芽が出るのは1~2粒程度とのことです。
今年はどのくらいのアマモが芽を出してくれるのでしょうか。
(発芽後おおよそ1か月くらいものアマモです)
これから経過を見ることがとても楽しみです♪
今回のアマモのタネ蒔きは、地球環境への貢献をしていることが実感できる貴重な体験となりました。
現在注目を集めているブルーカーボン生態系ですが、消失の危機にあるとされています。
1955年頃からの高度成長期の沿岸域の開発などによって、沿岸域の藻場は大幅に減少しました。原因は埋め立て、透明度の低下、化学物質の流入、磯焼け(魚などによる食害による藻場の砂漠化)などがあげられます。
周囲を海に開かれた日本では、世界に先んじてブルーカーボン生態系の働きと恩恵に注目し、保全・再生の取り組みが進められています。今後、国だけでなく自治体、企業や市民などの協働にも、大きな役割が期待されています。
皆さんも未来の地球のため、未来の子どもたちや私たちの生活を守るため、「海の森ブルーカーボン」の取り組みを始めてみませんか。
<監修>
海辺つくり研究会 古川恵太 理事長
https://umibeken.jp