遥かかなたから運ばれてきていたアジ

日本人になじみが深い魚といえばアジ。タタキや刺身になるものは国産のアジがほとんどですが、実は開きやフライに使われているアジは、ヨーロッパ産などの冷凍アジも使われていることを知っていましたか? 外国産のアジが、国産アジの不足を補っていることは意外に知られていないかもしれません。

日本人になじみが深い魚といえばアジ。
フライや干物、タタキなど様々な料理で親しまれている大衆魚です。叩いてアジの身を味噌と和えた「なめろう」は千葉の郷土料理で、お酒のお供に最適!
そんな庶民の味方のアジ。タタキや刺身になるものは国産のアジがほとんどですが、実は開きやフライに使われているアジは、ヨーロッパ産などの冷凍アジも使われていることを知っていましたか? 外国産のアジが、国産アジの不足を補っていることは意外に知られていないかもしれません。

太平洋にも大西洋にもいるアジ

(オランダで漁獲されたアジの開き)

アジは日本の沿岸でもよく見かける魚です。堤防のサビキ釣りなどでアジを釣った経験のある釣り人は多いのではないのでしょうか。スーパーなどでもほぼ一年中、アジの鮮魚や干物が並んでいます。このためアジは国産と思われがちなのではないでしょうか。

もともとは日本ではアジはたくさん獲れていました。しかし他の魚同様、現在では漁獲量の減少により輸入によって不足分が補われています。

アジは太平洋だけでなく大西洋にも生息しています。モロッコ、モーリタニアなどのアフリカ西海岸や、南米のチリ沖、ニュージーランド沖やヨーロッパの沿岸など、さまざまな海域で漁がおこなわれています。アジは比較的泳ぎが速いので、トロールで中層を曳いて漁獲する方法が普及しています。

日本人は脂がのったアジが大好きです。よく食べている方なら、干物になっていても脂ののりはわかりますよね。なので、国内アジの不足分の一部は、主にオランダ、アイルランドそしてノルウェーといった国々から輸入しています。
もともと大西洋のアジは、モロッコ、モーリタニアといったアフリカ西海岸諸国で漁獲される魚の輸入から始まりました。その後、他の産地も探しているうちに、イギリスとフランスに挟まれたドーバー海峡をはじめ、ヨーロッパ沿岸にいるアジの方が時期によっては脂がのっていることがわかり、1990年代から2000年頃にかけて西ヨーロッパから毎年4~5万トンも輸入するようになりました。このことがあまり知られていないのは、ノルウェーサバのように、産地がブランド化されていないこともあります。

欧州で買い付けされたアジは、主にアジの干物向けの原料用に輸入されるものです。その一大加工拠点は静岡県の沼津市。手開きによりアジを干物にする加工業者は現在では減少してしまいましたが、アジの原料がたくさん輸入されていた当時は、加工場が200件近くもあったそうです。
当時は年間で何万トンもの輸入アジが沼津で加工されるようになったので、ヨーロッパから1隻数千トンの冷凍アジを運んでくる大型の冷凍運搬船のために、港を深くしたほどです。

(欧州アジの漁獲量推移 ICES 単位千トン)

ヨーロッパ産のアジは、200g前後のやや大きめの脂がのったアジは干物向けに、100g前後の小ぶりのアジは、ふわっとした食感を活かしてアジフライとして日本で売られていました。

(大西洋で水揚げされたアジ)

(日本で水揚げされたマアジ)

しかしながら、ヨーロッパでもアジの資源が減少しています。また、アフリカ市場との競合も増え、2018年の輸入数量は約7千トンと減少が顕著です。1990年後半の輸入価格は、キロあたり約100円でしたが、現在はその倍の約200円となっています。

食用としてのアジの不思議

日本ではアジもサバも食用として人気がありますが、ヨーロッパではなぜかサバのほうが断然人気。このためアジを輸入する日本企業は、オランダ、アイルランドなどアジを漁獲している国々から歓迎されました。以前は輸入価格も安かったので、日本側にとっても都合がよかったのです。同じ青魚であっても、ニシンやサバはスモークになったり、フィレーになったり、加工されて広く親しまれていますが、なぜかアジはそのような加工がほとんどされてきませんでした。

(スモークサバ)

アジは輸入されてくる魚類の中では単価が安く、国産のアジとの競合も考えると、果たして遠くから運んできて採算が合う魚なのか? と当初は考えられていました。

アジをヨーロッパから輸入するのは、日本の次にはナイジェリアやエジプトなどアフリカ諸国。もともとはアフリカ向けの価格を最低価格として、サイズや品質の選別要求が多い日本向けは、そのプラスアルファということで買い付け交渉がされてきました。

しかし世界的に安い魚が求められるようになってきたとともに、アジの輸入も減少していきます。近年はアジの最低価格の上昇で、日本の買い付け価格にも影響が出始めているのです。

そのような事情があり、再び国産のアジに対する需要が高まってきています。そこで重要なのがサステナビリティ。アジを持続的に獲り続けられる仕組み作りです。2018年に70年ぶりに改正された漁業法に期待がかかります。
できることなら輸入に頼らなくても、日本近海で獲れた脂ののったアジが日本の食卓にあがり続けるようになるといいですね。