コンブ、ニボシと並び、「出汁」を取るためにはなくてはならない「カツオ節」。出汁として使う以外にも、削り節として多くの料理の風味付けに利用されています。その誕生は1300年前にもさかのぼります。
一見すると木材のようにも見え、世界一硬い食材としても知られています。
今回のテーマはズバリ!「カツオ節」です。
旬が2回ある魚、カツオ
9世紀中頃に編纂された『令集解』(『養老令』の注釈書)には、各地の産物を納めさせる税として、カツオの加工品と思われるものが記載されています。
このうち煮堅魚は、現在のカツオ節の原形と考えられています。平安中期の文献『うつほ物語』にはカツオの加工品を削って使用していたことが書かれており、カツオ節の名前は室町時代1513年(永正10年)の文献(種子島家譜)に登場しています。
現代のカツオ節と同様のものが作られるようになったのは、17世紀終わり頃。紀州印南(和歌山県印南町)出身の漁民が、土佐(高知県)で考案したとされています。土佐は昔からカツオの産地として知られ、郷土料理の土佐煮、土佐酢和え、土佐揚げなどはいずれもカツオ節を使用したものです。
(土佐煮)
その後、大阪でカツオ節の問屋が現れ、紀州や土佐から鰹節を仕入れては、大阪・京都などの消費地に供給していました。18世紀になると江戸でもカツオ節の消費が増え始めたため、大阪からたくさんのカツオ節が輸送されるようになったのです。
カツオ節の原材料はもちろんカツオ。主にソウダガツオが利用されています。 カツオからカツオ節を作るためには、以下のような工程を経ることが必要です。ちなみに、図の上段の過程で仕上げたものをなまり節といいます。
(カツオ節の製造工程 水産総合研究センター 水産加工品のいろいろ 「かつお節」を元に清書)
最終工程手前に「カビ付け」という項目がみられます。カビと聞くと悪いもののように思われますが、カツオ節に付いているカビは麹(こうじ)カビの一種で、ユーロティウムというカビ毒を産生しない優良カビです。意図的に優良カビを付けて悪性カビの発生の余地をなくしているのです。
カツオ節に付くカビには
といった働きがあります。
(コンブとカツオ節)
カツオ節を薄く削って味を付けた「おかか」や、お好み焼きにのせる削り節のトッピングも魅力的ですが、カツオ節といえばなんといっても「出汁(だし)」でしょう。
出汁に含まれる「うま味」は、甘味、塩味、酸味、苦味に次ぐ第5の味覚。基本味として日本人の池田博士が発見した美味しさの要素として世界でも知られることになりました。 植物性のコンブにはグルタミン酸(アミノ酸の一種)、動物性のカツオ節やニボシにはイノシン酸という、うま味成分が多く含まれています。
昆布とわかめ 似ているようで違いがある!?
江戸前期に刊行された料理書『料理物語』には、「だしはかつほ(カツオ)のよき所をかきて、一升あらば、水一升五合入せんじ、あぢをすひみてあまみよきほどにあけて吉、過ても悪候、二番もせんじつかい候」と、「出汁」の取り方や二番出汁についての記述も見られます。
カビの付いた「本枯鰹節」を削った「カツオ節削り節」は深い香りと独特のうま味が特徴。 一方、市販のパック詰めタイプの8割を占める「カツオ削り節」は、カビを付ける前の「荒節」から作った削り節です。
一般的なコンブ出汁とカツオ出汁の使い分けですが、カツオ出汁のイノシン酸は、お吸い物やおひたしなど、出汁のうま味をしっかり感じさせる料理に向いています。動物性のうま味成分のため、野菜の煮物など植物性の素材と相性抜群です。
コンブ出汁は、水炊きなどの鍋物のだし汁や、魚の汁物、魚の煮物などに合います。アミノ酸系のグルタミン酸と、魚から出る核酸系のうま味の相乗効果によるものです。
また、カツオ出汁とコンブ出汁を合わせた合わせ出汁にすると、よりうま味が際立ちます。 良い出汁が取れると、調味料での味付けが控えめでも美味しい料理になります。
身近な食材、カツオ節の秘密いかがでしたでしょうか?知恵とうま味が詰まった伝統食材、この冬も美味しく利用していきたいですね。