年取り魚は東のサケ、西のブリ!? お正月に食べたい魚

お正月といえばおせち料理が有名ですが、新しい年を迎えるためのご馳走として「年取り魚」を食べる風習をご存じですか?
日本には古くから、大晦日から元旦にかけて「年取り魚(としとりざかな/うお)」を食べるならわしがあります。新しい年を迎えるための大切な儀式で、東アジアで主流だった「数え年」の文化と関わりがあります。
「数え年」では、人々は元旦に一斉に年齢を重ねます。日本では、そのタイミングでやってくるとされる年神様を迎えるために用意した料理が「年取り膳」。そこに添えられる魚が「年取り魚」の起源といわれています。

魚の種類は地域により異なりますが、大きく分けると、東日本ではサケ(鮭)、西日本はブリ(鰤)が年取り魚として広く使われてきました。ではその由来やそれぞれの魚の特徴、使われる料理についてみていきましょう。

東の年取り魚は“栄える”サケ

(新巻鮭)

東日本の年取り魚の横綱はサケでしょう。サケは「栄える」が転じて、おめでたい魚とされています。

上の写真は「新巻鮭(あらまきじゃけ)」。サケを塩蔵したのち、寒風干しにした加工品です。三陸地方の伝統的な特産品で、寒風干しによって旨味が濃縮されており、年末のお歳暮・贈答品としての定番でした。新巻鮭は塩気が強いので、塩抜きをしてから調理します。

サケを使うお正月料理は、お雑煮の具はもちろん、塩焼き、昆布巻き、かす汁、地域によってはルイベ、氷頭(ひず)、洋風のオードブルとしてスモークサーモンなど様々。
サケの卵であるイクラは子孫繁栄に通じる縁起物として、また鮮やかな彩りとして、多くのお正月料理に使われています。

(サケの昆布巻き)

西の年取り魚は”出世魚”のブリ

(氷見の寒ブリ。上に乗っている数字はブリの重さ)

一方、西の横綱「ブリ」は、モジャコ→ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ(関西での名称)と大きさによって名前が変わる「出世魚」です。体長80cm程度に育つと、やっと「ブリ」と呼ばれるようになります。
ブリのように出世や成長にあやかりたい、とお正月や晴れの日に縁起の良い魚とされています。

上の写真は、通称「氷見の寒ブリ」。富山湾の定置網で獲れ、氷見漁港に水揚げされます。重さ7kg以上で、形・質が良好なものをブランド魚として定義しています。

お正月料理での利用は、刺身、雑煮、照り焼き、ブリ大根、ぶりしゃぶなど。
石川県では塩漬けしたかぶらに、塩漬けしたブリを挟んだ発酵食品「かぶら寿司」が欠かせません。

(石川県のかぶら寿司)

なぜ東のサケ、西のブリ?

お正月に食べる年取り魚が異なるのは、まだ冷蔵・冷凍技術が発達していない時代の流通事情が関係していると考えられます。東ではサケが、西ではブリが冬によく獲れていました。ちなみに、長野県など「東西の境目」ではサケとブリの両方を食べる地域もあります。

今回はサケやブリを取り上げましたが、秋田県の「ハタハタ」や宮城県の「カレイ」、岐阜県の「アユのなれ寿司」のように、地域独自で食べられる魚は様々です。

面白いことに、高度経済成長期以前の調査では、西日本の年取り魚には「イワシ」の名前が挙がっていました。イワシは正月料理というより、節分をイメージさせる魚。これはかつて節分(立春)が正月行事のひとつと考えられていたためで、時代を経て正月の意識が1月1日(元旦)にまとまると、イワシも正月料理から節分へ移行したようです。

現代では流通が発達し、季節を問わずさまざまな魚が手に入ります。しかし、地域に伝わる「年取り魚」の意味を知ったうえでいただくと、よりいっそう厳かに新しい年を迎えられるかもしれません。今年のお正月は、ご自身の地域に伝わる年取り魚を味わってみてはいかがでしょうか。

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