目にもとまらぬ猛スピードで泳ぐイカは、日本人になじみ深い食材です。
今回はイカが日本を回遊するお話や、かつては篝火(かがりび)などを使って行われていた、イカ漁のハイテク化についてお伝えします。
スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなど、市場に並んでいるだけでも、イカにはいろいろな種類がありますよね。
実は食用だけでも約30種、食べられない種類も含めると、世界には450種以上ものイカが生息しています。
中にはダイオウイカのような、無脊椎動物としては世界最大級の種類もおり、まだまだ生態が解明されていない、謎多き生き物です。
(スルメイカ)
日本で獲れるイカの7割以上はスルメイカです。私たち日本人が「イカ」と聞いて思い浮かべる、三角の帽子(ひれ)をかぶったような姿のイカです。スルメイカは北海道から九州まで日本中で獲れるので、函館や新潟、呼子(佐賀県)など、名産地が全国各地にあります。
しかし水揚げ量は減少傾向にあります。2000年~2014年は平均で23万トン漁獲されていましたが、2015年から減り始め、2018年は記録的な大不漁で5万トンに低下してしまいました。
(左:スルメイカ秋季発生系群の分布図 右:スルメイカ冬季発生系群の分布)
(出典:水産研究・教育機構)
スルメイカの寿命は約1年といわれ、秋から冬をピークに約20万粒の卵を産み、短い一生を終えます。
産卵する海域は水温と深い関わりがあり、季節に応じて適した水域で産卵することが分かっています。稚イカは海流に流されながら成長するため、生まれた季節によって回遊する海域が違います。
秋生まれ群は対馬暖流に乗って日本海に、冬生まれ群は黒潮に乗って太平洋にも流されてゆきます。
(津軽海峡の漁火)
イカ漁は、光に集まるイカの習性を利用して漁をするため、漁火はイカ漁のシンボル。江戸時代以前は松明(たいまつ)や篝火(かがりび)が、1890年ごろからは石油灯やアセチレン灯、そして1920年代に入ると電球照明が用いられましたが、それほどは明るくなかったようです。
明るくすればするほどイカが集まるイカ漁は、1950年代以降に白熱灯やハロゲン灯、80年代には、一灯で家庭用電球約40個分にもなる「メタルハライドランプ」を船中に灯すようになり、どんどん明るくなっていきます。
この頃になると、燃料費が経費の40%近くを占めるようになり、イカ釣り漁船は人工衛星からも確認できるほど明るくなりました
(出典:水産研究・教育機構 FRANEWS vol.18)
最近では、燃料費高騰の影響や環境保護の観点からLEDが使われ、省エネルギー化を促進する技術が開発されています。
また水産研究・教育機構では、人工衛星から届く海水表面温度データや、過去の水深50mの水温データなどをスーパーコンピューターで解析し、スルメイカの分布を予測しています。海域を絞ることで漁の効率化が進み、操業経費の削減が可能になりました。
おいしくて、干すと日持ちすることから、古くから重宝されてきたイカ。
その生態も少しずつ解明され、かつては漁火を煌々(こうこう)とたいていた漁も、今ではテクノロジーを駆使した最先端の漁に様変わりしています。資源と環境を守りながら、これからもおいしくいただいてゆきたいですね。