漢字で「眼張」と書くように、大きな丸い目が特徴のメバル。メバルの仲間は世界では約100種、日本周辺にも30種ほどが生息していますが、スーパーや鮮魚店で見るのは「〇〇メバル」ではなく、ただ単に「メバル」という名前ばかり。いったいなぜでしょう。
メバルは「春告げ魚」とも呼ばれています。これからの春本番に合わせて、今回はメバルを特集します。
(左からクロメバル、シロメバル、アカメバル)
一般的に「メバル」として市場に流通しているのは、クロメバル、シロメバル、アカメバルです。この3種は少し前まで分類上は区別されておらず、すべて「メバル」として扱われてきました。最近になって分類上3種類に分かれたためか、今でも流通上はあまり区別されていません。3種とも「メバル」の名で呼ばれていることがほとんどです。
ほかにも、ウスメバル(沖メバル)、エゾメバル、タケノコメバル、クロソイなどメバル属の魚はたくさんいます。この記事の一番上の写真はウスメバルです。以前に紹介したアカウオ(モトアカウオ、アラスカメヌケ、チヒロアカウオ)やアコウダイもメバル属の魚です。
メバルは地域によってはハツメ、メバチ、モバチメ、メマルなどと呼ばれることがあります。やはり特徴的な大きな目にちなんだ呼び名が多いようです。
アカウオという魚はいない?
メバルは単独で生息していることもありますが、基本的には小さな群れをつくり、沿岸の岩礁帯や、藻場を回遊して生息しています。肉食性で、ゴカイなどの多毛類や甲殻類のほか、小魚なども捕食します。その食性を利用して、ルアーでメバルを狙う「メバリング」は多くの釣りファンに親しまれています。
(立ち泳ぎしているシロメバルの幼魚)
変わった習性として、メバルは頭を上に向けて、中層で立ち泳ぎのような独特のかっこうでいることがあります。捕食のための行動か、他の魚を警戒しての行動か、その両方なのか、はっきりとした理由はわかっていません。
さらに特徴的なのは、メバルは卵胎生ということ。ほとんどの魚は、メスが卵を岩や海藻に産み付けたり水中に放卵したりして産卵します。これを卵生といいます。しかしメバル属の魚はメスの体内で卵が孵化して、仔魚となり海中に放出されます。これは卵胎生といいます。メバルの近種のカサゴや、サメやエイの仲間の一部、淡水魚ではグッピーが卵胎生として知られています。
(クロメバルの煮つけ)
メバルは透明感のある身をもった白身魚です。身離れがとてもよく、熱を通しても硬くならないため、さまざまな調理方法に向いています。それほど大きなサイズでない場合は、頭のついた丸のまま、煮つけや焼き魚、から揚げがおすすめです。大きいサイズのもので鮮度が良いものはお刺身でもいただけます。煮つけの残った汁を使った炊き込みご飯は大変美味です。
ところでメバルの旬はいつでしょうか?
実は「旬」には二通りの考え方があります。一つは、その魚種が漁獲しやすく漁獲量が増える時期「漁獲の旬」を指す場合、もう一つはその魚種が一番栄養を体に蓄える時期「美味しさの旬」を指す場合です。ほとんどの魚は産卵前が一番体に栄養を蓄え、脂がのっています。
メバルの場合は卵胎生のため、交尾から産仔の期間中で産卵、孵化に備えて最も栄養を蓄えます。メバルは東北、北陸、北海道中部の地域は10月初旬頃、関東から西は12月初旬頃までの期間が交尾の時期となります。このためそれぞれの漁獲場で「美味しさの旬」の時期に違いがあると言えます。
では「漁獲の旬」はどうでしょう。豊洲ほか、多くの市場では春から取引量が増えだし、6月にピークを迎えています。
(東京都中央卸売市場取扱実績を元に作成)
このように、春になると獲れる魚のことを春告げ魚といいます。日本は南北に細長いため、各地で「春告げ魚」は異なります。メバルを春告げ魚と呼んでいるのは、主に関東や東北です。漢字では「眼張」以外に「目春」と書くこともあり、釣り人の中には「春の釣りはメバルから始まる」と楽しみにしている人も多いようです。
かつて北海道ではニシン、瀬戸内海ではサワラやイカナゴが春告げ魚として親しまれていました。最近では漁獲量が激減しています。
メバルなど根魚(ねうお/ねざかな…岩礁や瀬などにすみ、あまり遠くへ移動しない魚。ロックフィッシュとも)は成長が遅く、また養殖が難しいといわれています。もし小さなメバルが釣れたときにはリリースして、大きくなって再び春を告げてくれるのを待ちましょう。