カワハギ、身は夏・肝は冬がおいしい魚

つぶらな瞳に突き出たおちょぼ口、ひし形のユーモラスな体をしたカワハギ。硬くて丈夫な皮に覆われており、これをツルンと剥いて調理することから「皮を剥ぐ→カワハギ」と呼ばれるようになりました。

漢字では魚偏(さかなへん)に皮で「鮍」と書き、英語圏では「file fish(ヤスリ魚)」と呼ばれます。うろこが退化して小さい棘状になり、皮と一体化してザラザラのヤスリのようだからでしょう。乾燥させたカワハギの皮では、ワサビをすりおろすこともできるそうです。

可愛いおちょぼ口の中には鋭い歯

カワハギは、フグ目カワハギ科に分類される魚です。
国内のカワハギは、青森県~九州南岸の日本海・太平洋沿岸、瀬戸内海と広く分布しています。比較的水深の浅い砂地に生息し、甲殻類、貝、ゴカイなどを食べる肉食性の魚です。

(カワハギのおちょぼ口の中には鋭い歯がある)

カワハギの捕食方法は少し変わっていて、ちいさな口から勢いよく水を吐き出すことで砂の中からエサを探し出します。また頑丈で鋭い歯が生えているので、貝などの硬いエサも噛み砕くことができます。

カワハギは「鳴く」ってホント?

カワハギは独特な鳴き声を持っています。「ギッギッ」と歯ぎしりのような音を出したり、「グググ」と細かい音を出したりするのが特徴です。犬や猫のように声帯を使って音を出すのではなく、浮き袋の振動や歯を噛み合わせて鳴き声のような音を出しています。カワハギ釣りをする方はおなじみの鳴き声でしょう。

以前ご紹介したイセエビも触覚の根元に発音器を持ち、こすり合わせることで音を出していましたね。

「エサとり名人」だけど愛好家が多いカワハギ

(釣れたカワハギ)

カワハギは口が小さく、ヒレを器用に使って水中で静止しながら捕食できるため、釣り人が気づかないうちにエサをとってしまう「エサ取り名人」と呼ばれています。

そのためカワハギを狙って釣るのは難しく、釣具メーカーや釣具販売店が主催するトーナメント(釣り大会)が頻繁に開催されているほど、釣りの対象魚として人気の魚です。

おいしさは身だけじゃない!カワハギ、肝の魅力

カワハギは春から夏に産卵しますが、産卵後に体力を回復したカワハギの身は、脂肪分が少ないあっさりとした白身で、歯ごたえがあり、フグ目に属するだけあってフグのように非常に美味。しかし、カワハギのおいしさは身だけではないんです。

(カワハギの刺身と肝)

カワハギは栄養を脂肪として肝臓(キモ)に蓄えることから、他の魚と比べて肝臓が肥えています。冬に備えてエサを多くとるので、冬のカワハギの、こってりとした旨味と甘みがある肝も絶品です。肝つきで生食できる白身魚は珍しいので、ぜひ機会があればご賞味ください。

カワハギの旬は2回

(カワハギの肝醤油)

そして、おすすめの食べ方のもう一つに、肝に醤油を合わせて作る”肝醤油”で食べる刺し身が妙味。淡白な白身と濃厚な肝醤油のハーモニーが、口の中に広がります。

そう、カワハギは身を味わうなら「夏」、肝を楽しむなら「冬」といわれていて、一年に二度おいしい魚なのです。

カワハギは養殖できる?

市場に出回っているカワハギは天然ものが多いのですが、近年では養殖のカワハギも人気になりつつあります。

(出典:長崎県漁連 養殖魚と天然漁のカワハギ比肝重の比較)

天然と養殖の違いは何といっても肝の大きさ。天然のカワハギの体重に占める肝(肝臓)の重量が2~4%前後に対して、養殖カワハギは10%以上にもなるという調査結果があります。参考までに、体重に対する肝臓の重量はウマが約1%、イヌは約3%、猫は約2.5%、人間が2.3%くらいといいますから、大きな肝は養殖カワハギの特徴とも言えそうです。

カワハギの養殖では稚魚を捕まえて、成魚にしてから出荷する畜養が行われていますが、ムラサキイガイなどの二枚貝類も好んで食することから、飼育網に付いたムラサキイガイなど付着生物の掃除役として、ブリ(ハマチ)などと混合での養殖が行われています。

夏に旬を迎える魚はいろいろありますが、身も肝も楽しめる養殖カワハギも侮れません。釣り人に人気があり、愛嬌あるルックス。
そして夏も冬もおいしくいただけるカワハギは、愛すべき魚です。