除夜の鐘を聞きながらいつの間にか眠ったあと、朝起きてみるとテーブルの上にはおせち料理。クリスマス、大晦日とあわただしかった年末から、急にゆっくりした正月気分が訪れます。
かつておせちは各家庭で手作りしていたものですが、時代の流れとともに、お店やネットで購入する家庭が増えてきました。
黒光りするお重に入った目にも華やかな「おせち」は、新年を祝うには欠かせない日本の伝統食文化です。
最近ではグリルチキンやテリーヌなど、洋風のオードブルが加えられることもありますが、やはり定番の料理が入ったおせちを今でも多く見かけます。
今回はumito.らしく、海の幸を使ったおせち料理を、その由来とともにご紹介いたします。
昔は三月三日や五月五日のような節句の祝い料理を「おせち」と呼んでいましたが、今では「おせち」といえば正月料理をさすようになりました。
おせちの中身は地域や家庭ごとに異なりますが、押さえたい「三つ肴(肴三種)」として、関東では「黒豆、数の子、田作り」、関西では「黒豆、数の子、たたきゴボウ」が挙げられます。
三つ肴のうち、東西どちらにもラインナップされている海の幸が数の子です。
(数の子の由来:子宝や子孫繁栄)
たくさんの魚卵が集まった数の子の原料はニシンの卵。「ニシン→二親(両親)」「子供がたくさん産まれるように」「子孫が繁栄するように」などのゲン担ぎの意味があります。
魚卵を使ったおせち料理はニシンのほかに、サケやマスの卵「イクラ」、スケトウダラの卵の「明太子」、ボラの卵の「カラスミ」、カラフトシシャモやトビウオの卵を使った「いか黄金」「荒磯こがね」なども使われています。
また、ニシンが昆布に卵を産み付けた「子持ち昆布」は、よろこぶの「こぶ」と掛けて、とてもおめでたい料理です。ちなみに昆布は「昆布巻き」として、サケやニシンなどの魚を昆布でを巻いて使われることも多くあります。
(田作りの由来:五穀豊穣)
関東の三つ肴に数えられている田作りは、山陰地方では「からんま」、関西では「ごまめ」と呼ばれ、炒ったカタクチイワシを酒・ミリン・サトウ・醤油などで煮詰めた甘露煮です。
古来、イワシを灰に混ぜて肥料に使った田んぼは、良い米が獲れるといわれており、五穀豊穣を祈念する意味を込めて、イワシの甘露煮を田作りと呼ぶようになりました。関西の田作りの名称であるごまめは、漢字では「五万米」と書きます。このことからも稲作にちなんだ由来であることが想像できますね。
(エビの由来:長寿・魔除け)
エビはお正月だけでなく、さまざまな慶事に使われています。 「茹でると腰が曲がる」「ひげが長い」という特徴が長寿の象徴とされ、また目がでているので「めでたい」の語呂合わせの意味もあります。
茹でたあとの鮮やかな赤色は黒のお重に映え、おせちが一層豪華な印象になります。さらに昔から赤色は魔除けの色といわれており、また慶事に華やかさを添えるため、おせちに欠かせない料理になりました。同じ理由で酢だこを入れることもあります。タコは魔除けの赤の他、「多幸(たこう)」に通じる点、墨を吐いて敵から逃げるところから「苦難を煙に巻く」という願いも込められています。
赤い色といえば、めでタイの「マダイ」も慶事には欠かせない海の幸です。切り身をそのまま重箱に入れることもありますが、尾頭付きの塩焼きだと重箱には入りきらないため、別のお皿に盛って並べることもしばしば。
(アワビ:長寿)
アワビは「長生き」「不老長寿」の象徴です。のしアワビの身が長くのびることから、めでたいことが長続きするようにとの願いが込められています。
(黄色のものが伸ばしたアワビ)
ご進物(しんもつ)に添える熨斗(のし)といえば、紙に水引や文字が印刷されたものがほとんどですが、本来は熨した(のばした)アワビを挟んだものが使われていました。今では上の写真のように、真ん中に包まれている黄色い部分がアワビを表しています。
高価なあわびの代用品に、トコブシが用いられることもあります。トコブシは別名「フクダメ」と呼ばれることから、「福がたまるように」との願いが込められています。
貝類ではほかに、煮ハマグリを入れることもあります。これはハマグリの二枚の貝がぴたりと合うのは一組しかないため、夫婦円満の意味を込めたものです。
ホタテ、サザエ、バイ貝、アサリやシジミの佃煮などがおせちに使われることもあります。
(伊達巻き)
おせちの由来、最後を飾るのは伊達巻きです。「伊達巻きは卵料理では?」と思った方もいると思いますが、伊達巻には魚の「すり身」が使用されています。
伊達巻きは、白身魚のすり身や白いはんぺんを卵と合わせてみりんや砂糖で調味して焼き上げ、冷めないうちに巻き簀(す)で形を整えます。この形が昔の書物(巻物)に似ていることから伊達巻きには学業成就の願いが込められています。伊達巻きは子供に人気のおせち料理。学業成就にはもってこいの具材といえます。
名前の由来は諸説ありますが、見た目が伊達(おしゃれ・華やか)なため、その名が付いたといわれています。
すり身といえば紅白のカマボコも、見た目もめでたく華やかで、おせち料理の定番です。「寿」や「干支」の文字を着色したおめでたいカマボコも見かけます。
このほかにも、魚介類のおせち料理は、ブリの照り焼き(ブリは出世魚なので出世を願って)、棒鱈(“たらふく食べる”の意味から一年間食に困らないように)など、実に多彩です。
反対に中国地方の一部の地域ではワニ(サメ)の刺身など、びっくりするような料理がおせちの定番になっているところも。
北海道や東北地方などの一部の地域では、お正月ではなく大晦日から食べ始める習慣もあり、おせち文化はとても多様性に富んでいます。
いつも食べている、当たり前と思っていたおせち料理は、実はほかの地域では珍しいおせちかもしれません。
こうして見るとおせちは魚料理の宝庫。新年は新しい魚料理との出会いの場になるかもしれません。
みなさん、おせちをぜひ楽しんでくださいね。
今年もありがとうございました。