常に動き続けている大海原。その海水の動きの中で、海流は常に一定の方向に流れています。海流には大きく分けて2種類あり、それがみなさんも聞いたことがある「寒流」と「暖流」です。
寒流と暖流には、明確な温度による区別はありません。寒流はおもに高緯度(北極・南極方向)から低緯度(赤道)に向かい、暖流はおもに低緯度から高緯度に向かって流れています。
(海水が循環する仕組み)
海流はふたつの大きな流れによってできると考えられています。
ひとつは風の力による横方向の流れ。1年を通して強く吹く偏西風と貿易風、さらに地球の自転や地形などの影響により、深さ1000m程度よりも浅いところの海水は海流となって流れます。これらの様々な海流が結びついたりぶつかりあったりすることで、海水は世界の海の表層をぐるぐると循環しているのです。
もうひとつは海水の密度の違いによる鉛直(縦)方向の流れ。水には、温度が低く塩分濃度が高いほど密度が大きくなり、重くなる性質があります。
北大西洋のグリーンランド沖の海水はとくに密度が大きく、深層に沈み込んだ海水は大西洋を南下して南極海にまで達します。同様に南極付近の海水も密度が大きいため、深層に沈み込み、インド洋や太平洋へと北上していきます。これらの海水は北上する過程で上層の海水と混合され、密度が小さくなると上昇し、表層海流としてインド洋からアフリカ大陸南端を通り、大西洋を北上して出発点のグリーンランド沖へと戻ってきます。
このような横方向と鉛直(縦)方向の流れが組み合わさって起きる地球規模の海水の流れは「海洋大循環」、または「海洋のコンベアベルト」と呼ばれています。グリーンランド沖を出発した海水がもとの場所へ戻るまでの周期は、なんと数千年にもおよぶと考えられているのです。
私たちの住む日本近海の海流としては、南西方向に流れる寒流「親潮(千島海流)」「リマン海流」と、北東方向に流れる暖流「黒潮(日本海流)」「対馬海流」が有名です。
(日本近海の海流)
寒流と暖流を比べると、寒流には魚のエサとなるプランクトンがより豊富に存在します。寒流である親潮は、栄養分が多く、魚や海藻を育てる親のような存在であることが名前の由来であるといわれています。
プランクトンの成長に必要な栄養分は、水温が低い海底に多く存在します。寒流は海底付近との温度差が比較的小さいため上下の攪拌(かくはん)が起きやすく、海底にある栄養分が太陽光の届く表層に湧きあがります。その結果、植物プランクトンが繁殖し、栄養分が豊富になるのです。
反対に暖流は海底付近との温度差が大きいため攪拌が起きにくく、栄養分は少なくなります。
一般的に暖流は透明度が高く、寒流は濁っています。寒流が濁るのは豊富なプランクトンが光を遮るためで、寒流である親潮は濁った緑色や茶色っぽく見えます。一方で、暖流である黒潮は透明度が高く、光の透過や海底の色によって青黒く見えます。
”きれいな”海の色は何色?
寒流と暖流がぶつかる場所を「潮目」と呼びます。潮目にはエサになる小さなプランクトンがたくさんいるため、魚が多く集まり、良好な漁場を形成します。日本では、東北地方の三陸沖に寒流の親潮と暖流の黒潮がぶつかる潮目があり、好漁場として有名です。
(冷たい海の魚:マダラ 温かい海の魚:カツオ)
それでは、寒流、暖流で多く漁獲されるメジャーな魚を挙げてみましょう。
寒流ではタラ、ホッケ、サンマ、サケなど、暖流ではカツオ、マグロ、ブリ、シイラなどの魚が多く漁獲されています。
温かい海を好むカツオは日本の南方で生まれ、一部は黒潮にのって、エサを求めて北上します。春に日本南部から北上してきたカツオが、おなじみの初ガツオです。その後カツオは東北沖周辺の栄養豊富な潮目を目指してさらに北上します。たくさんエサを食べたあとは、水温低下に伴い越冬や産卵のため南下します。
このように夏から秋にかけて南下するカツオを戻りガツオと呼びますが、最近ではこれらの時期に限らずカツオを楽しめることが増えてきました。初ガツオや戻りガツオを楽しみにしている方にはうれしいことですね。
旬が2回ある魚、カツオ
マイワシのように分布域が広く、広範囲で漁獲される魚もいます。
たとえば、本州・四国・九州の周辺域で産卵したマイワシは、春から夏にかけて黒潮にのり、親潮の影響が強い10~17℃の海を求めて北海道沖から南千島沖の広い範囲を回遊します。その後秋に水温が低下してくると南下し、本州の沖合に移動していきます。
ただ、マイワシは水温が6℃以下になると仮死状態になってしまいます。そのため季節の変わり目などに水温が急激に低下すると、弱って死んでしまうことがあります。
マイワシが大量に海岸に打ち上げられたニュースを見たことがあると思いますが、これは急激な水温低下を避けたイワシの群れが水温の高い浅瀬に逃げこみ、酸欠で死んでしまったことが原因のひとつとして指摘されています。
一説では、魚にとっての1℃の水温変化は、人間にとっての10℃の気温変化に相当するといわれています。ちょっとした水温変化であっても、魚の種類や状態によっては人間には想像できないくらい大きな影響を及ぼすことがあるのです。
(三陸の海)
日本近海には、世界の海水魚の25%にあたる約3,700種の魚が生息しています。日本は世界でも有数の漁業大国であり、古くから漁業が発展してきました。地域によって獲られる魚の種類が変わることから、魚食文化も実に多様です。
魚を食べる機会には、その魚の泳いでいた海の環境についても思いを馳せてみましょう。
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